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椎名 昴
Toy?



有栖川へとは入らずに、湾岸線沿いの国道を走るリムジン。
車内は思いの他静かで、彼も一向に口を開かない。
どうしたものかと彼を見れば、彼はその視線に気づき、私を見た。


「美乃里の顔が赤い」

彼の手が伸びてきて、私は思わずはたいた。

「触らないでよ!」

膨れっ面をして、再び窓の外を見る。
もうすぐ、四方木だ。













四方木で有名な駅前の高級百貨店へ入ったリムジン。
駐車場に車が停まり、佐藤さんが扉を開けてくれた。



優雅な音楽が流れる店内。
有名なブランド店が奥まで軒を連ねている。
天井にはいくつもシャンデリアが並び、金銀に光っている。

呆気に取られて店内を見渡していると、彼が…椎名くんが私の手を握った。
「ちょ…!」
振りほどこうとしたが、彼は離さない。
仕方なく引かれて歩き出す。





「いらっしゃいませ」
綺麗に化粧をしている女性が、私たちの前でお辞儀をした。
「どうも」
彼が軽く声をかけて、店内に入っていく。
どうやら女性向けの洋服店のようだ。


ふと棚に飾られた鞄の金額に目がいき、息を呑んだ。
間違いなく、6桁の数字が並んでいる。


奥に通されて、彼がイスに座った。
「さ、好きな服を選んで」
「は?」
彼が私の手を離し、私と飾られているドレスとを見比べる。
「婚約パーティーに着るドレスを選ばないと」
「はぁぁぁぁ!?」
私は眉間にしわを寄せて叫んだ。








「うーん、それは派手過ぎる」
試着室で着替えては椎名くんに見てもらうが、椎名くんがすぐ首を振る。
かれこれ1時間、こうやってドレスを選んでいる。
店員は次々とドレスを運んできては、私が試着するのを手伝った。
真っ赤なストリップドレスを着たが、やはり首を振る。

「はぁ、意外と頑固ですね」
「チーフ」と名札の名前の上に付け足された女性が、額の汗を拭いながら私に言った。
「え、ええ…そうなんですね」
私は曖昧に返事をして、渡された次のドレスのファスナーを下ろした。
「失礼ですが、柄園様は椎名様とはどんな関係で?先ほど婚約パーティーとおっしゃっていたような…唯様は?」
「唯」さんの名前を聞いて、ドキッとした。
そうだ、椎名くんは唯さんという婚約者がいる。私が彼の婚約者なわけがない。
「え、えぇ、そうです。唯さんが婚約者です。私は…」
胸元のリボンを結んでいた店員が、顔を上げる。
「あなたは…?」



「結婚ごっこの、お相手です…」




カーテンが取り払われ、椎名くんの前へ出る。
薄ピンクの丈の短いドレスだった。
胸には小ぶりのリボンが結ばれ、3段になったスカートがわずかな風にも揺られる。
頬杖をついていた椎名くんが、ふと顔を上げた。


「うん、それでいい」



彼が微笑んだ。とても優しげに。
「え?」
私は彼の笑顔と発言に驚きながら、値札を探す。
「えぇ…!?」
明らかにコンマが2つ刻まれている。
な、7桁だ…。百万円台じゃないか。



「し、椎名様…?本当ですか?これは試しに着させてみただけですし、わがブランドの一点物でして、値段もはっております」
「だから?やめとけって?」
「いえ、そうではなく…」
店員たちが目を合わせて、口をつむぐ。
「たかが「結婚ごっこ」にお金を使わないでください」
店の奥から先ほどのチーフが出てきた。
「こちらもプロとして、お客様のニーズに合わせて最高のドレスを提供させていただいております。椎名様にはいつもお世話になっておりますが、遊び相手のプレゼントにこのドレスを使ってほしくはありません」
「…遊び?」
椎名くんがぽかんとして聞き返す。
「先ほど、柄園様が」
彼の視線が、一気に私へ向いた。
「…遊び?」
もう一度彼が私に向けて聞く。
「俺が、あんたで遊んでいると?」
彼の視線が鋭くなる。
「いや、あの…でも……、事実でしょ」
唯さんがいるでしょ。
口には出さなかったが、その気持ちを込めた。
手入れのされた綺麗な髪、肌。椎名くんと結婚するためだけに選ばれた女性…唯さん。
彼女が、いるじゃない。

「…包んで。こいつの着てるドレス」
椎名くんの声色が低くなる。
「ですが!」
「包めって言ってんだよ!」
椎名くんが私の腕を掴んで、チーフの元へ投げつけた。
「いたっっ…椎名くん…?」
怖くなって、チーフにしがみつく。
「柄園様…、そのドレスを、包ませていただきます…」
私はチーフや他の店員に誘導され、ドレスを脱いだ。








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