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椎名 昴
Prince kiss




階段を上りきり、椎名くんのお母さんと対峙する。
明らかに私を邪険に見る、意地悪なお母さんの瞳。

…椎名くんソックリだと思う。





「合コンに行ったそうだね」
椎名くんを見て、ゆっくりとそう言った。
「うん、行ってきた」
椎名くんの手が、私の肩を掴みそのまま自分の方へ寄せる。
私はそれに戸惑いながら、こっそりお母さんを見上げると、案の定お母さんは私を睨みつけていた。


「いい?あなたは皇位継承権がなくたって、それなりの地位ある人間。いくらお友達に誘われたからって合コンなんて…はしたない行動はやめて」



はしたない…と言われ、私の表情が暗くなった。
なんだかとても気分が悪い。

夏菜もチハルも、そして私も、はしたなくなんてないと思うから。




「でも俺、自分の意思で行ったし、見つけてきたよ?」
「見つけてきた?バカなことを言うのはやめて」
椎名くんのお母さんは必死に感情をおさえているのか、声が震えてきた。
「あなたには由緒あるお屋敷でお育ちになった、聡明で高貴なお相手がいらっしゃるのだから」
「ヤだね」

彼がぶっきらぼうに答える。
この空気、かなり怖い…。


「彼女は柄園美乃里。かわいいっしょ?」
「いい加減にしなさい!!」



「お義母様!」
顔を真っ赤にした椎名くんのお母さんを見かねた、私たちと同じ歳ほどの女の子が彼女に駆け寄った。

とても大きな瞳に、綺麗な髪。
かなりの美人だ。




「唯さん、ありがとう」

怒りでふらつくお母さんを支えるように、彼女がお母さんの肩を抱く。



「唯、来てたんだ。久しぶりー」


椎名くんが、それだけを淡々と言って、私の肩を引っ張った。


「こっち来い」

「昴!」









お母さんの怒鳴り声を背中に受けながら、私は椎名くんに肩を抱き寄せられたまま、部屋の奥へと入っていった。





「俺がこんなだから、おかげでおふくろは高血圧」
彼がそんなことを言いながら、部屋の鍵をかける。
扉の向こうでは「開けなさい!」とお母さんの声。



「あの…」




状況が飲み込めず、いまだに理解できない私。
目線だけで部屋を見渡した。





大きな部屋に大きなベッド。
そして、豪華な家具が並んでいる。

天井にはまばゆい光を放つシャンデリア。




まさかここが、椎名くんの部屋??







「ま、どっか座って」


彼が隣の個室に行き、缶ジュースを取ってきてくれた。
缶ジュースを手渡され、手に冷たい感覚が広がる。



これは、現実なんだ…。





「あの、皇位継承権って聞こえたけど」


「うん、うち皇族」


「え!?」


彼がベッドに座って、缶ジュースを飲む。
そんな当たり前に言うことじゃないよね!?


「うちの親父は三男だし、その息子の俺は限りなく皇位継承権から遠いの。ニュースとかでも見たことないだろ?ってかまず東京にすら住んでねぇし、一般の高校に行ってるから、普通の人と変わんねぇんだけどね」


呆然と話を聞く。
この人、正気だろうか。



見渡すかぎり、豪華なものばかり。
とても嘘ではなさそうだけど、でもあまりにも私の生活からトリップしすぎていて………理解困難。


「あの、それで、さっきの「唯」さんは?」


「見ればわかるだろ。婚約者」


「こっ、婚約者!?」



彼がジュースを飲むのをやめて、私を見る。
「そんなに珍しい?」




今どき、婚約者が高校生の時点で確定している人間がいるんだ。
……すごい。



私は缶ジュースに移る自分の顔を見ながら、興奮している気持ちを抑えた。


「でも今さっき、婚約者じゃなくなった」


「えっ………」



顔を上げると、彼は首元のホックを窮屈そうに緩めた。



「こっち来いよ」






胸がドキッと跳ね上がった。
だってベッドで胸元を緩めた彼は、同じ歳とは思えないほど色っぽくて、いやらしく感じたから。


「な、何言ってるの…」


冷静さを取り戻させるために言ってみるものの、私の顔は耳まで熱くなっていた。



まるで壁にはりつけられたように動けない。
恥ずかしい。



「来ねぇと、今日返さない」


「えっ、そんなっ!」
思わず時計を探して見上げると、時計は9時を過ぎている。
そろそろ帰らなきゃ!




「来いって」







彼が少し優しく言うので、私はついに座っていた椅子から腰を持ち上げた。


フワフワな絨毯の上に一歩ずつ歩を進める。
どうしてこんなことになったんだろう。
とてつもなく長い時間を味わった気がする。



彼の目の前に立つと、彼は私の手を取って、手の甲に唇をおとす。
(わっ、わわ…)

さすが、皇位継承権がないといえども皇子様。
とても様になってる!



彼が瞳を私に向けた。
私はさらに顔を真っ赤にして、彼を見つめる。




「今、このときから、俺の婚約者はあんただ」



「…は!?」


私は呆然としたまま立ち尽くした。






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あきゅろす。
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