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椎名 昴
His home






四方木を抜け、湾岸を横断するブリッジウェイに乗る。

真っ暗な空と海。

幾重にも重なり、燦然と輝く四方木の街並み。
ビルの明かりが海に反射して、とても綺麗だった。
あそこだけ昼みたいに、明るく輝いている。





ブリッジウェイを走る車の窓から、私はその景色を呆然と眺めていた。











―――――静かな車内。
黒塗りの高級車に、革のシート。
二度と縁のないような豪華な車の中に、今私は乗っている。

現実から目をそらすように遠のいていく四方木の街を見ていた。







「あんた、いくつ?」
彼の声で、現実に引き戻される。
「……………」
私は嫌な顔をして振り向いた。

彼がニッコリとこちらを見て笑っている。
私の頬がひきつった。


「…17…だけど」
「結婚できるね」
「だから、あのっ…!」
声をあげようとした瞬間、「何か?」と運転席に座る男性に、バックミラー越しに見られ、口をつぐんだ。
「お前ウザイから閉めて」
「あ、すみません…」
運転席と後部座席の間に壁ができ、従者らしき男性と遮断された。
「…何か」
彼が再度顔を近づけて私を見る。
彼の髪の隙間から見えるピアスが、意地悪に光った。

「あっ、いや、あの…っだから!」

彼に顔を近づけられ、私は目を反らして顔を真っ赤にした。
椎名くんって、本当にカッコイイんだ。ちょっと意地悪な怖い顔をしてるけど。
彼が、真っ赤になった私を見て笑った。
そして近づけた顔を元に戻す。

「あんたは、ただ話を聞いてて。大丈夫、取って喰いやしないよ」
「………………………」
「たぶん」
彼がこちらを見てニヤリと笑ったので、私は今度真っ青になった。













閑静な住宅街を、車は静かに走っていく。
ひときわ大きな邸宅の前で、車がブレーキを踏んだ。



「…ここは?」
窓から上を見上げて、彼に問いかける。
「…俺んち」
「え!?」
私は外の景色から目を離し、彼を見る。
いや、いくら何でもおかしいよね!?








黒の鉄格子がゆっくりと開き、車が進む。
真ん中には大きな噴水。それを囲むように両側に道路が伸びている。
道路の先には、真っ白な大邸宅。
ところどころに立つ外灯が煌煌と揺らめいている。

イギリスの貴族の家に来たのかと錯覚しそうな、高級感溢れるタタズマイだ。










私は引き続き呆然と、過ぎ行く景色を眺めていた。
見たこともない植物も、いたるところに生えている。


入り口に到着し、車が完全に止まった。
扉が開き、先ほどのスーツの男性が「どうぞ」と言って、私を下ろさせる。


「ね、ねぇ、椎名くん」
私が彼に駆け寄り、真っ青な顔をして見上げる。
「いい顔してんね」
彼がニコリと微笑む。
更に冷や汗が吹き出た気がした。






木でできた大きな扉が開き、まっすぐに伸びる赤い絨毯が目に飛び込んできた。
両側にはたくさんのメイド服を着た女性が並んでいる。
「おかえりなさいませ」
声を揃えて、彼女らがこちらに礼をした。
「おー、ただいま」
椎名くんが歩きだしたので、私も彼の後ろをピッタリとくっついて歩いた。

両側のメイド服の女性が、驚いたように私を見る。
「…誰?」とまで聞こえた。



「ねぇ、椎名くん。うちに帰りたい…」
彼の服の裾を引っ張って必死に言うが、彼は聞こえていないふりをしたまま廊下を歩き続ける。
「ねぇ、本当にお願い」
廊下を歩き続け、階段に到着した。
階段を1段上った時、上から声がして彼と一緒に見上げた。

「おかえり、昴」
私たちを見下ろす、化粧が綺麗に施された女性。
私の顔がさらにさらに真っ青になる。
ねぇ、椎名くん、ウソだよね…?


「ただいま」
彼は適当に返事をし、階段を上る。




明らかに椎名くんのお母さんじゃないか……。





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