01 柔らかな日差しが、雲に覆われ暗くなる。 風は強く吹いていたが、この陽気のためか肌寒くはなかった。 碇を下し島に上陸したキッド海賊団は、人気の無い荒れ果てた民家を見て足を止めた。 「おい、キラー…ここ、無人島じゃねぇよな?」 「そうだったはずだが」 キッドに聞かれ、キラーは腕を組んだ。 前の島で、次の島についての情報は調べてある。 ここは春島『ラクアンテ』で間違いないはずだ。 しかし、目の前に広がるのはただの廃墟たちだった。 人の気配は欠片もしない。 建物が破壊された様子はなく、ただ人がいなくなって老朽化しただけのようだった。 もう何年も人がいないのだろう。 キッドは舌打ちしつつも「とりあえず人間でも探すか」と言って歩き始めた。 それに他の船員達も続く。 皆それぞれ手に武器は持っていたが、それを使う事はないと全員分かっていた。 それほどまでに、ここには生き物の気配がないのだ。 大型の猛獣の類いもおそらくは生息していないだろう。 木々から飛んで行くのは愛らしい小鳥ばかりで、恐ろしい生き物の気配などまるでない。 キラーは崩れた煉瓦を踏み越え、倒れて砂に埋まった看板を見つけた。 その場に膝をついて、砂を払う。 すると、痛みきった板に『ようこそ、ラクアンテへ!』の文字が彫ってあった。 「キッド、これを見ろ」 「あ?」 キラーが看板を持ち上げて、キッドに見せる。 キッドは目を細めて文字を読み、そして顔を空に向けた。 「マジかよ。じゃあ、ここが…一ヶ月もログ溜まるのに時間食う島ってか」 前の島で聞いた話によると、ラクアンテはとても栄えた島とのことだった。 商船も多く出入りし、海賊達ももちろん港を利用する。 宝の鑑定も質が高く、換金するならこの島だとまで言われるほどだ。 そしてログが一ヶ月かかるという難点だが、これはエターナルポースを売ってくれる店が存在するという話で解決するはずだった。 キッド達はラクアンテで宝を換金し、船のメンテナンスをしたり物資の買い出しをした後にエターナルポースを手に入れる予定だった。 しかし。 今目の前にあるラクアンテの姿は、とてもではないが発展した港町には見えなかった。 栄えていた、というのは何十年か前の話なのではないか。 「この様子だと、エターナルポースもなさそうだな…」 キラーの呟きに、キッドが忌々し気に流木を蹴った。 乾ききった木が哀れにも砕け散る。 「クソ!おい、ガセネタ掴まされた阿呆はどいつだ!!」 「すまん、俺だ」 「お前かよ!!」 即答したキラーに、キッドは呆れ気味に肩を落とした。 八つ当たりする気も失せたらしい。 「あの男、嘘を言っている様子はなかったんだがな…」 「どっちにしろ、こんな町を栄えた町とか言う奴はイカれてやがる。テメー相手に平気で嘘だって吐けるだろうよ」 キッドは近くにあった岩にどっかりと腰を下ろした。 そして葉巻を取り出す。 「とりあえず、何か探して来い。エターナルポースとかな」 「…見つかればな」 自分はもうそこから動く気すらないらしい。 キッドは葉巻に火をつけると、そのままキラーから目を逸らした。 こんな退屈で何もない島で、一ヶ月。 果たして船長の気が持つだろうか。 八つ当たりがてら殺されそうな戦闘力の低い船員に目をやり、キラーは心の中で密かに詫びた。 廃墟と化した町を抜け、キラーは森へと続く道を進んだ。 まだわずかに轍の跡がある。 草が生えてだいぶ分かり辛くなってはいたが、迷うような道ではなかった。 キラーはそのまま森の奥へと入った。 相変わらず人の気配はしなかったが、今キッドのもとに戻るのも面倒だと考えたのだ。 この森を抜けた先に拠点を移した可能性もある。 森の中は幾分か涼しく、首筋に触れる風は冷たい。 小鳥のさえずりが聞こえる穏やかな道を、ゆっくりとした歩調で歩く。 その時、水の音がした。 キラーは足を止め、音のした方を探した。 木々の隙間に、光るものが見える。 その方向に向けて、キラーは迷う事無く歩き始めた。 水音は、大きなものが飛び込むようなものだった。 もしかすると人間かもしれない。 手は自然と武器を握っていた。 木々を抜け、背の高い草をかき分ける。 すると、急に開けた場所に出た。 そこには、美しい湖があった。 かなりの深さがあるらしく、水は青く輝いている。 湖の縁に近づいて中を覗き込むと、たくさんの小魚達が泳いでいるのが見て取れた。 しかし、不思議な事にその魚達を狙う鳥の姿は見当たらない。 これだけ透明度の高い湖ならば、小魚など絶好の餌食だろう。 キラーは空を仰ぎ見た。 先ほどまで雲に隠れていた太陽が顔を出す。 柔らかな光に照らされた湖は、さらに美しく輝く。 ばしゃんっ! 今度は近くから聞こえた水音に、キラーはハッとして湖の中へと視線を戻した。 音の主を探す。 それは、すぐに見つけられた。 キラーの足下にいたのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |