[携帯モード] [URL送信]
12



与助には嫁も子どももいる。
それでも、与助といい仲になったというなら、俺のやったことはただの出しゃばりでしかない。
だが、それにしてはどうにも様子がおかしかった。
餓えを満たすように男の一物をしゃぶるナマエを見て、恋情など感じられなかった。
愛撫を受ける与助も、快感より恐怖の方が滲み出ていた。
異様な光景だった。

俺が二人を見つけたのは偶然だった。
庭を歩くナマエの姿を見つけ、話しかけようとした。
俺が近づく前に、与助が話しかけるのが見えた。
ナマエは俺に背を向けており、その表情を見る事はできなかったが、その後与助の手を引くナマエに違和感を覚えた。
そして俺は二人の後を追い、見てしまった。




「……なんで、あんな事をしたんだ」

俺はナマエを部屋に連れて帰った。
与助は酷く狼狽えていたので、とにかく自分の部屋に戻るよう言った。

ナマエは焦点の定まらぬ目で俺の方をぼんやりと眺めていた。
意識がどこか別の場所に行っているように見える。
俺の声が届いているのかどうかも怪しかった。

「別に、…悪いことじゃ、ないだろ」
「は、…なに、言ってんだ…お前」

虚空を見つめ、話し始めたナマエの口調はどこか幼さを感じさせた。

「おれは、きもちぃ事…してやっただけだ」
「与助には嫁さんもガキもいるんだぞ」

茶色の目が、こちらを向く。
それが妙に澄んでいて、俺は寒気を感じた。

「だから、なに?」

返された言葉に絶句してしまう。
ナマエは本当に悪い事をしたとは思っていないようだった。

「男は、気持ちよければ何だっていいんだって…だから、俺も欲しい」

支離滅裂過ぎて、ナマエのいわんとする事の意味が理解出来ない。
俺が黙っていると、ナマエは俺に近づいて来た。

「なぁ、おれ、誰でもいいんだ…ここに入れてくれるならさぁ」
「おま…」

ナマエの指が、俺の唇に触れる。
天井裏で忍が殺気立ったのを感じ、右手を上げてそれを制した。
しかしナマエはそんな俺の動きにすら気づいていない。

「元親も、気持ち良いのすきだろ…?」
「ナマエ、待て…落ち着け」
「なんで」

俺の帯を解こうとするナマエの手を掴む。
ナマエは肩で息をしていた。
すごく、苦しそうに見える。

「誰でも良いだなんておかしいだろ。もっと、自分を大事に…―」
「アンタに何が分かるんだよ!!!」

ビリビリと空気が揺れる。
ナマエは涙を流していた。

「元親はきれいだ!だから、俺のことなんて分かるわけない!!分かんなくて良い…っ!!」

くすんだ金髪を両手でぐしゃぐしゃとかき乱す。
その間も涙は止まる事なく溢れた。

「どうしようもないんだ…俺、セックスしないと…だって、おれ、それしかない…っ俺が、しないと…なぁ、相手してくれよ」
「ナマエ…」
「部下に、手ぇ出したらダメなら…元親が、俺の相手してくれよ…っ!」

俺はナマエの肩を掴んだ。
薄い肩は、少し押せば簡単に退かすことができた。
小さな子どものようにしゃくり上げて泣くナマエに、俺は静かに言った。

「…それは、できねぇ」

その一言で、ナマエはピタリと動きを止めた。
そして、酷く傷ついた目で俺を見上げる。
汗で額にはり付いた金髪をそっと撫でた。
止まった涙がみるみるうちに膨らむ。

「そういうことは、好き合った者同士がやるもんだ」
「…そんなん、だったら俺、一生できねぇよ」

掠れた声でナマエが呟く。
項垂れたナマエに、俺は続けた。

「だから、俺は…その、…まず、お前を好きになってみる」

ナマエが、顔を上げる。

「…………………へ?」

長い沈黙の後に出たのは、何とも間の抜けた声だった。





[*前へ]

14/14ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!