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「……変なこと聞いて、ごめん」

長い沈黙の後、ナマエはそう言った。
別に、変なことを聞いたとは思わない。
戦のない世界から来たナマエにとっては、人を殺めるなど未知の感覚だろう。
それを知りたいと思う事が、悪いことだとは思わない。
確かに、楽しい話題ではないが。

「元親様、失礼致します」
「おう」

俺が答えると、部屋に女中が入って来た。
…思っていたよりも酒が少ない。
それを訴える前に、女中から鋭い目で睨まれた。

「……さがって、良いぞ」
「はい、失礼致しました」

しずしずと頭を下げて部屋を出て行く。
さっきの眼力が嘘のようだ。

ナマエと酒を飲むのを良しとしていないアイツらのことだから、こんなに酒の量を少なくしたのだろう。
そこまで警戒する必要はねぇってのに、まったく俺の判断を信用してねぇな。
…まぁ、それもこれも俺の身を案じての事だというのは分かっているが。



酒を飲み始めたのは良いが、ナマエは二杯目にして潰れた。
こんな奴を警戒するだなんて、本当に馬鹿みたいだ。






「…気持ち悪…」
「あんぐれぇで潰れるとか、ねぇだろ」

翌朝のナマエの顔色は蒼白だった。
もともと色白だが、今日は青みがある。
本当に気分が悪いのだろう。
ちょっと、悪い事をしてしまったと思った。

「あんなに強い酒とは思わなくて…そもそも俺、酒に弱いんだ」
「…その、なんだ。無理に勧めて、悪かったな」

野郎共は水みてぇにガパガパ飲むから、酒に弱い人間が存在するということを忘れてしまう。
俺が謝ると、ナマエは力なく笑って首を振った。

「気にすんなって、俺もいけるかなーって思って飲んだし…それに、潰れて逆に良かっ…」
「ん?どうした?」

言いかけてやめたナマエに、聞き返す。
しかしナマエは「はは、何でもない」と言ってはぐらかした。





そうしてナマエが現れてから七日間。
俺はナマエと共に異世界へと繋がる道を探した。
しかし、結果は惨敗。
初めて会った場所にも何度となく行ったが、何の手がかりも得られなかった。
そして、困った事がもう一つ。

ここ最近、ナマエの様子がおかしい。
最初から変な奴だとは思っていたが、最近の様子はそれに拍車がかかって、変だった。

まず、気づけば俺の事を眺めている。
視線を感じて振り向けば、絶対にナマエがいた。
しかもナマエは訝しんでいる俺に全く気づいていない。
声をかけるとやっと気づいて、なぜか顔を真っ赤にする。

次に、常にそわそわして落ち着きがない。
「厠か?」と聞いたらどつかれたが、厠に行きたいのを我慢してるように見える。
実際、結構な頻度で厠に行っている。
何かの病でなければ良いんだが、心配だ。

そして、俺が近くにいない時は野郎共の方を凝視している。
初日と比べ、ナマエは随分野郎共と打ち解けた。
もともと口はよく回るし、聞き上手でもある。
それに野郎共を乗せるのが上手い。
俺が執務をこなしている間、ナマエは野郎共の訓練を見ていた。
最初無理矢理訓練に参加させたら即行で倒れたので、今は誰もナマエを訓練に誘うようなことはしない。
見てるだけが一番楽しいと、ナマエは言うのだが。
それにしても…見過ぎ、というか、まさに凝視していた。

そして、その視線には…何とも言いようがないほど、色気があった。

ナマエは細身ではあるが、決して女顔ではない。
しかし、危うさを覚えるほど色香を放つ時がある。
出会った時も一瞬感じたが、最近はその頻度が増しているのだ。

白い頬を赤く染め、少し潤んだ茶色の目を切な気に細める。
そして物欲しそうに、指先で唇に触れる。

…目の毒だ、と思ってしまった。





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あきゅろす。
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