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6

別の世界から来た。

だなんて、信じられる事ではない。
それでも、もしそんなものがあるのなら、と思ってしまった。

ナマエは自分から言い出したことだというのに、俺が異世界の存在を認めた上で話を進めようとすると、呆気にとられたような顔で俺を見つめた。

「あぁ、そっか。お前、自分で来たわけじゃねーって言ってたな」
「う、うん…家で寝てて、起きたら…あの島にいたっていうか」
「それじゃあ、どうやって来たのかは全く分からねぇってことか」
「そう、だな…」

この国の近くに、ナマエが持っているような絡繰りを作れるような国があるだなんて聞いた事がない。
それに、ナマエは俺と同じ言葉を話している。
めんきょしょ、とかいう板に書かれてた言葉も、漢字に似ていると言えば似ているし、文化圏が近いと考えるのが自然だ。
でも、あのけいたい、とかいう絡繰りの仕組みはさっぱりだ。
あんな高度な技術をもった国がこの近くにあるとしたら、日ノ本中に知れ渡っているに違いない。

そう考えると、別の世界、しかも何百年も先の世界から来たという説明の方が納得出来る気さえする。

「な、なぁ元親…俺が言うのも変なんだけどさ……本当に信じてるの?」
「あ?何をだ?」
「だから…その、俺が別の世界から来たってこと」

ナマエはそう言って、なぜか心配そうに俺の方を見た。
…いや、意味が分からない。
何で俺が心配されなきゃならないんだ。

「んだよ、その目は」
「だってさ、普通…コイツ頭おかしいんじゃねぇの?って思わない?」
「それは出会った瞬間に思った」
「マジでか」

まじでか…?南蛮の言葉か?
ナマエの話す言葉は時々意味が分からない。
「じゃあ、尚更何で俺の言う事信じてくれるのさ?」とナマエはしつこく聞いて来た。
能天気に見えたが、以外と猜疑心が強いらしい。

「…お前が寝てる間に連れて来られたっつーのが本当の話しならな、立地的にありえねぇんだよ。そんな短時間で行ける国はここぐれぇだ。なのにお前は長旅してきた様子もねぇし、見た事ねーもんばっかり持ってやがる。んな技術の進んだ国が近くにあったら、俺が知らねぇわけねーだろ」

「だからむしろ、別の世界から来たっての方が納得できたんだよ」と続けると、ナマエは阿呆みたいに口を開けていた。

「………ちゃんと考えてたんだ…」
「あ?」

ボケーっと口を開けていたかと思えば、ぼそり、と何気に失礼なことを呟く。
俺が聞き返すと、ナマエは「何でもない!!」と慌てて手を振った。

「…まぁ、いい。それより、何か心当たりとかねぇのかよ?」
「心当たり?……うーん、別に昨日はいつも通りだったけどな」
「妙な奴に会ったとか、変な所に行ったとか、そんなのは?」

俺が訊ねると、ナマエは腕を組んで俯いた。
昨日の事を思い出そうとしているらしい。

「……9時から8時までは工場にいたし、その後は客に晩飯奢らせて…ホテルでヤッただろ…、んで金もらって…コンビニ寄って…家帰って、3時くらいには…寝たな」

何だかたくさん意味の分からない言葉が出てきた。
くじ、はちじ…?

「んーやっぱ変わった事とか何もしてねぇわ。クズ人間の規則正しい生活サイクルできてっから」
「お前が言ってること半分くれぇ分からねーんだが」
「良いよ、清らかなままでいて」
「だから何だよそれ」

さっきも言われた言葉だ。
確か、アオカン?がどうのって話をしていた気がする。
島から出してくれたら説明するって言ってたな。

「別に知らなくても良い言葉ばっかだからさー」
「島から出したら礼と一緒に説明するとか、何とか言ってただろぉが」

俺がそう言うと、ナマエはピタリと動きを止めた。
そして天井を見上げる。

「あー…でも、ここでヤッたら、青姦じゃあないかな」
「だから、やるって何の事だよ」
「セックス」

また出て来た知らない単語に、自然と眉間にしわがよる。
コイツ、俺が分からないってこと分かってて、わざと南蛮の言葉を使ってるな。

ナマエは笑って、俺の方へと近づいて来た。
首筋の赤い痕に目が行く。
何故だか妙に色気があった。

「分かんない?何となぁく、分かって来たんじゃねーの?」
「何が」
「なんか俺さー正直訳分かんな過ぎて、現実逃避したいんだよね。殿様プレイってのも楽しそうだし」

ナマエが俺に手を伸ばす。
俺はその手首を取った。

「いや、駄目だろ」
「……………は?」
「ちゃんと帰り方考えろよ。俺だって行ってみてぇし」

現実逃避なんてしている場合か。
異世界への帰り方を見つけないと、困るのはナマエ自身だ。
それに何より、ナマエの世界に行ってみたい。
やり方は分からないが、ナマエが俺の世界に来れたのだ。
逆も然り。
出来ない事はないだろう。

「工場とか見てぇしな!」
「…そう」

俺が声を弾ませると、なぜかナマエは脱力していた。
脱力、というより、落ち込んでいるように見えた。




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あきゅろす。
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