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どうやら兄ちゃんは、とんでもない所に来てしまったようです。



俺は心の中で、おそらく遠くにいるだろう妹に向けてそう言った。
元親と話しているうちに、嫌な予感は確信に変わった。
ここは日本で間違いないと言う。
そして今は戦国の世だと、ありえないことを当然のように元親は言いきった。
加えて、元親はヤのつく自由業の方でも何でもなかった。
四国…この国を治めるお殿様だという。
戦国時代、城、殿様…。
とんでもなさすぎて、笑ってしまう。
早くカメラが出てきて、ドッキリ大成功!とか言って欲しい。
そう願ったけれど、城の中にそんなものはない。

「ナマエの国はどんな所なんだ?」
「機械とか、えっと絡繰り?の技術が発達してて、人力で物を動かすことはあんまりないな」
「すげぇな!行ってみてー」

俺の大雑把すぎる説明にも、元親は目を輝かせる。

「絡繰りの部品とかを大量に作る工場があって、俺はそこでバイト…働いてんの」
「じゃあナマエも絡繰り作れるのか?」
「いや、俺は下っ端だから無理。不良品弾いたりするだけ」

応えながら、俺は携帯の画面を見た。
元親と会ってからだいぶ時間が経っているはずなのに、時計は最初見た時と変わらず午前8時17分と表示されていた。
そして、やっぱり圏外。なぜか充電も減っていなかった。

「船でどんくらいかかる?」
「え?何が?」
「だから、ナマエの国までだよ。絡繰りの町を見てみてぇんだ」

元親は俺を送ってくれるつもりらしい。
かなり絡繰り…機械に興味があるようだ。
最初に俺を取り押さえた時のような、敵意や警戒心はなかった。
これは、正直に仮説を言うべきだろうか。
俺自身信じられないことを、元親が信じてくれるとは思えない。
でもこのまま適当に流せるとも思えなかった。
船で帰るなんて、絶対に無理だ。
馬だろうが何だろうが、きっと無理だ。帰れるわけがない。

ここが戦国時代で、名だたる戦国武将達がなぜか同時期に存在して戦いまくっているという、とんでも設定の世界だというのが本当のことならば。

「あー…元親。俺も状況が理解出来てないから、これはあくまで仮説なんだけど…」
「なんだよ」
「落ち着いて聞いてくれな?」
「俺は落ち着いてる」

嘘つけ。ワクワクっていう効果音が聞こえて来そうなくらい興奮してただろうが。
俺は大きく息を吸った。

「俺、たぶん…別の世界から来た、んだと、思う」

歴史はからっきしだが、元親や他の人を見ればいくら馬鹿な俺でも、ここが俺の世界の戦国時代ではないということくらい分かった。
銀髪で青い目の戦国武将がいただなんて聞いたこともない。
それに他の人達だってそうだ。体つきも顔つきも現代的で、昔の人という感じが一切しない。
ここが『過去』の世界であるわけがないのだ。

俺の言葉に、元親は青い目を見開いた。
驚き一色だ。
当たり前だろう。いきなりこんな電波なことを言われたら、驚く以外リアクションの取りようがない。
これから俺はどうなるんだろうか。
頭のおかしい怪しい奴ってことで殺されたりすんのかな。
それだけは勘弁して欲しい。

「別の、世界…?」
「…たぶん、そうだと思う。俺の生まれた時代は平成って言って、戦国時代よりも何百年も後の時代なんだけど…ここ、俺の知ってる歴史とは全然違うみたいだし」

部屋の中に沈黙が流れる。手のひらに冷たい汗が滲むのを感じた。
元親は考えこむように腕を組んだ。
沈黙が恐い。
本当に、これからどうなるのだろうか。

「……別の世界ってよ、どうやったら行けるんだ?」
「……………へ?」

元親の素朴な質問に、俺は全身から力が抜けるのを感じた。
どうやらこの男は、俺のとんでもない仮説を信じてくれたらしい。
どんなキャパシティーなんだ。

心が広いのか、素直なのか、馬鹿なのか。

よく分からないが、元親の目は真剣だった。
真っ直ぐ俺を見て、話を聞いてくれている。

夢だと思いたくなるほど現実離れした状況だというのに、元親が俺の話を信じてくれたことに喜びを感じてしまった。




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あきゅろす。
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