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7


*




それは唐突だった。




爆音と男達の悲鳴。木箱が粉々に砕け散り、燃えながら辺りに舞う。
深紅の炎が立ち上る中、美しい青年が凛と立っていた。








キッド海賊団が出航し、島が見えなくなった頃だった。
キラーは船の中に異様なものを感じた。
船長室に向かおうと廊下に出ると、丁度キッドも出てきていた。
キラーと同じものを感じたらしい。


「お前ら戦闘準備をしろ」


キッドは周りの船員にそれだけ言うと、足早に甲板へと出た。
波は穏やかなもので、天気も良い。
視界はいたって良好だった。
360度見渡しても、敵船の影はない。
キッドは手すりに乗り出して海面を見た。
海王類の影も見えない。

ならば一体何なのか。



「何かあったかキッド」
「いや、何も―…」


ない、と答えようとした時だった。
激しい爆音と共に甲板に縛りつけてあった荷が燃え上がった。
火薬の類いは濡れないように船内に運び入れたはずだ。
甲板に爆発するようなものは一切おいていない。
突然のことに、近くにいた船員達は悲鳴を上げて床に転がる。
船が大きく揺れた。


白煙の中に細身のシルエットが浮かび上がる。
それが徐々に姿を表し、キッドは目を見開いた。
真昼の太陽の下、月光のような銀髪が煌めく。
対する深紅の両眼は怒りの炎を燃え上がらせていた。
その対になった色合いを持ち合わせた青年は、背筋が凍るほど美しい。


「やっぱり生きてたんだな」


キッドが呟く。それは喜びを隠しきれていなかった。
青年は両手の上に小さな火の玉を生み出した。
ゆっくりとキッドへ歩み寄る。
船員達はあまりのことに呼吸も忘れて青年の姿を見ていた。
いつでも斬りかかれるよう姿勢を低くするキラーを、キッドが手で制する。
手を出すなと言外に言われ、キラーは黙って従った。


「人間、貴様は真っ先に殺してやる」
「でけぇ口叩くじゃねぇか」


「俺に食われて啼いてたくせになァ?」とキッドが挑発すると、青年は首を傾げた。


「は…?食われてなどおらぬ、むしろ今から私が貴様を食ってやる」


どうやら下世話な揶揄は通じなかったらしい。
青年の言葉にキッドと周りにいた船員達は思わず固まった。


「くっハハハハッ!!おもしれぇ!やれるもんならやってみな」
「…人間なぞ不味くて好かぬが、今は丁度腹が減っておるからな」


ギラリと鋭い牙が光る。
青年の言う「食う」は本当に言葉のままの意味らしい。
ギョッと青ざめている船員達に対し、キッドのテンションはどんどんと上がっていた。


青年が両手を上に上げる。
キッドも手を上に上げた。
青年の手から巨大な火の玉が放たれたのと、船中の武器が青年に降り注いだのは、ほぼ同時だった。
キッドが横に跳んで火の玉を避ける。
手すりに激突した火の玉はなぜか手すりを燃やすことなくふよふよと空中でまとまった。
どうやら目的のものだけを燃やすように出来ているらしい。
対する青年は一足跳びでマストから張られたロープの上に移動していた。
掠り傷一つもなく、キッドを見下ろす。


「能力者か…」


青年を冷静に観察していたキラーが呟く。
船員達は飛び交う銃やナイフ、火の玉を必死で避けていた。
キッドが負けるとは思わないが、このままでは船が沈んでしまう。

キッドはバラバラに操っていた武器を左手に集めていた。
生け捕りにしたがっていたと言うのに、あれで一気に潰す気らしい。
青年は体重を感じさせない動きでロープの上から手すりに跳び、黒い服の袖を大きく振った。
袖に当たった銃弾が跳ね返る。
それは逃げ遅れた船員の腕に命中した。
痛みに叫び声を上げる船員に青年が目をやる。
すると青年の上に大きな影が出来た。
キッドが巨大になった左手を振り上げる。
青年は唖然とした顔でそれを見上げた。
しかし恐怖は滲んでいない。
ただ純粋に驚いているようだった。


「…貴様、本当に人間なのか?」
「どうだかなァ!!」


勢い良く振り下ろされる腕。
キラーはこれで終わったな、と思った。
周りの者もそう思っただろう。

しかし、青年はその腕を受け止めていた。
足場にした手すりがミシミシと嫌な音を立てる。
細身の体のどこにこんな力があるのか、青年は両手を使ってキッドの腕を徐々に押し返してきた。
これは海に突き落とした方が早く勝負がつくのではないか、とキラーが構える。
それに目敏く気づいたキッドはキラーを振り返って怒鳴った。


「手ぇ出しやがったら殺すぞっ!!」


誰にも楽しみを邪魔されたくないらしい。
キラーが腕を組み直すと、キッドは再び青年へと向き直った。
青年の乗った手すりが割れる。


「く、そっ…!!」


バランスを崩した青年は苦し紛れにキッドの左手に火を放った。
銃の火薬に引火して暴発する。
燃えるはずのない鉄の塊に、赤々とした炎が上がった。


「キッド!武器を手放せ!!」


キラーが焦りを滲ませた声で言う。
青年の足元は完全に崩れ、体がふわりと宙に舞った。
炎がキッドの体に到達する前に、キッドは叫んだ。


「リペル!!」


燃え盛る武器達が一斉に飛び散った。
それは燃えながら海へと沈む。
同時に、青年も海に落ちた。




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