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キッドとキラーはスーツを着てオークション会場に入った。
キッドは金色の仮面で顔の上半分だけを隠している。
キラーは元から顔を出していないので、帽子をかぶって誤摩化していた。
ヤクニが人買いに攫われたという確証はないが、もし人間になっていたらその可能性は多いにあった。
ヤクニの見目は美しい。
いくらでも買い手はつくはずだ。
いつものヤクニであれば捕らえるのは命がけだが、人間になっていればそれも容易いだろう。
能力を使わずとも簡単に組み敷く事が出来る細い肢体を思い出し、キッドは奥歯を噛み締めた。

前兆がなかったわけではない。
今日はヤクニの方がキッドよりも深く眠っていた。
セックスの時につけた歯形も残っていた。
爪の先も丸くなっていた。
いつもよりも饒舌で、自分のことをたくさん話してくれた。

気づくべきだった。
ヤクニは人間の姿を他のものに見られたくなくて、船に戻りたいと言ったのだろう。
あの時はまだ日は沈んでいなかった。
だからキッドと一緒に船に戻りたがっていたのだ。
それをキッドは、キラーに嫉妬しての我が侭だと思い込んでいた。

「いつもは10人程度らしいが、今日は大量に入荷しているそうだ」

カウンターで酒を貰って来たキラーが小声でそう言った。
暗い照明の中、グラスの酒が光る。

「肉体労働の奴隷、愛玩具になるものの取り扱いが多いらしいが…」
「性奴隷ってやつか」

ヤクニの見目なら男女共に人気を集めそうではある。
美しい者をコレクションしたがる変態だって大勢いる。

「そろそろ始まるか」

神経を逆撫でするような不快な音楽と共に、人間を売り物にした残酷なショーが始まった。










魚人の兄妹、腕の長い男、人魚のクウォーター、戦闘民族、虫かごに入れられた小さな人間…様々な商品に次々と値段がつけられていく。
キッドは手にしたグラスを空にすることなく、ステージを見据えていた。
14番の商品が登場する時、なぜかステージ上には誰も立っていなかった。

「大変申し訳ありません、14番の金色の瞳を持った少年は商品にならなくなりました。ので、続きまして15番!大岩をも持ち上げる巨人族のクウォーターをご紹介します!!」

司会者の説明に、会場がざわめく。
しかし、すぐに新しく出て来た商品の競りが始まった。

「…どうする、キッド。突入するか?」

ステージに上がる直前で死んだのだろう、14番の少年にヤクニの姿が重なってしまったのか、キラーは隠していた武器に手を伸ばした。

「いや、まだだ」

キッドなら、すぐにでも突入すると言うと思っていたが、意外にも冷静さを保っていた。

「アイツはこんな屑共に殺されるようなタマじゃねーよ。それよりこの酒返して来い、不味くて飲めねーってな」
「一口も飲んでないだろう」

キラーは困ったように笑いながらもキッドからグラスを受け取った。
酒の代わりに水でも貰って来ようと、カウンターに向かう。

その時、視界の端に黒髪の女と緑髪の男が映った。
若いボーイに何やら話しかけている。
トレイに乗った酒を貰うのかと思ったが、ボーイはそのまま台の上にトレイを置いた。
そして三人の姿は会場袖の階段へと消えて行った。

…あの緑髪の男の方、武器を隠し持っていたな。

おそらくあのボーイは無傷では帰れないだろう。
仮面の男女はきっとこのオークションの客ではない。
後をつけるかどうか一瞬考えたが、キッドから離れるのは得策ではないと即思い至り、キラーはそのままカウンターへと向かった。

キッドが一口も飲まなかったグラスを返し、代わりに水を受け取る。
そのままキッドの元へ戻ろうとした時、カウンターの端に座っていた男に二人の男が駆け寄って来た。
この三人もオークションの客には見えない。
キラーは気づかれない程度に男たちの様子を窺った。
カウンターに座った男は斑模様の帽子に、黒い仮面をつけていた。会話までは聞こえないが、あとの二人の仕草からしてこの男がリーダーのようだ。
身振り手振りの大きいキャスケット帽をかぶった男が、リーダーの男から頭を叩かれる。
そして、リーダーの男が椅子から立ち上がった。
それと同時にキラーの方へ視線を向ける。
キラーは不自然に思われない程度の動きで、視線を逸らした。
男は何秒間かキラーの方を見ていたが、それだけだった。
手下の男たちに何やら指示を出し、先ほど仮面の男女とボーイが下りて行った階段へと向かう。

キラーはその背中をチラリと確認し、キッドの元へと急いだ。








「キッド、俺達以外にも『取り返しに』来た連中が紛れ込んでる」

キラーはキッドに水を渡しながら耳打ちした。
それを受け取ったキッドは、唇の端をニヤリと持ち上げる。

「おもしれぇ」

グラスの水を一気に飲み干し、そのまま床に放った。
落ちたグラスは毛足の長いカーペットに受け止められ、砕ける事なく転がる。

『商品』の番号は30番台に入っていた。





ステージの照明が暗くなる。
舞台袖には派手な格好をした司会者の男が立っていた。
マイクを右手に、次の『商品』の番号を読み上げる。

「さて、続きまして34番!」

カッとステージの照明が一気に中央に降り注ぐ。
そこにはいつのまにか一人の青年の姿があった。
美しい黒髪が光りを反射し、傷一つない白い肌が輝く。
薄い布は透けており、青年の肢体を艶かしく見せていた。
手足には銀色の輪と鉛色の鎖がはめられている。
両脇に立つ男たちから鎖を引かれ、ステージの手前へと歩み出す。
その歩は優雅なもので、他の『商品』たちのような怯えは一切なかった。
青年が顔を上げる。

その美しさに、一瞬会場は静まり返った。

そして割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
青年…ヤクニは観客を蔑んだ目で見下ろしていた。

「気高き絶世の美青年!どんな時でも不遜な態度を崩しません」

ヤクニはその場にどっかりと腰を下ろした。
男たちが鎖を引くが気にも留めない。
片膝を立てて座り、会場を見回す。

「どう手懐けるかは、貴方次第!それでは5000万からスタートです!!」

仮面で顔を隠した観客たちが、こぞって値札を掲げる。
その値はヤクニには読めない字で書かれていた。
しかしヤクニは気にする事なく、会場の中にある人の姿を探した。

そして、見つけた。





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