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「…おいキッド、あれは…どうしたんだ?」

甲板の手すりに寄りかかったまま動かないヤクニを指差して、キラーは訊ねた。

カーティアでのログもたまり、船は予定通りに出航した。
そんな中、ヤクニはどこか上の空だった。
他の船員達やキラーに対しての威圧的な態度もない。
笛を奏でるでもなく、ただぼーっとしているのだ。
そして時折、手首に光るバングルを見つめ、指先でそっと撫でる。
飽きる事なくそれを繰り返していた。
どう見ても様子がおかしい。

「あぁ、あれか?カーティアで作らせたんだけどよ、結構良い出来でな。俺も作れば良かったぜ」
「いや、バングルの方じゃなくてだな…」
「足枷もアンクルに作り直したぜ」

キラーはヤクニのことを聞いたのだが、キッドにはいまいち伝わっていなかった。
ヤクニの姿を見つめ、キッドはどこか上機嫌な声で続ける。

「割と金かかったっつーのにヤクニの奴、『枷であることに変わらぬ、見た目などどうでも良い』とかなんとか言いやがって」
「…そうか。そう言った割には…大層気に入っているように見えるが」

キッドとキラーから見られていることにも気づかないくらい、ヤクニはバングルをじっと見つめている。
キラーの言葉に、キッドは満足げに頷いた。

「だよな!アイツ、素直じゃねーけど分かりやすいからよ」

そう言って、愛おし気にヤクニを見つめる。
そんなキッドを見てキラーは、もしや今俺は自分から進んで聞かなくても良い惚気話を聞いてしまったのでは…、と思った。










船は快晴の中、順調に航海を進めていた。
メンテナンスをしたこともあり、島を出てからの進度はかなり良いペースだ。
濃紺の夜空には満天の星が輝き、いくつもの流れ星が弧を描く。

そんな美しい景色を見る事なく、ヤクニはベットに腰掛けたままキッドの背中を見つめていた。
コートを脱いだキッドの広い背中には、大きな火傷の痕が残っている。
完治してはいるものの、かなり重度の火傷だったのだ。
皮膚はケロイド状に引き攣っていた。
それを負わせたのは他の誰でもない、ヤクニだ。

キッドが武器やベルトを外していると、ふいにヤクニが立ち上がった。

「ん?どうした?」

振り返ると、ヤクニは「よく見せろ」と短く言う。
何の事か分からず固まるキッドを無視して、ヤクニはキッドの背中に触れた。
鋭い爪を立てぬよう、指先で触れる。

「人間は、傷が残るのだな」

火傷の痕をなぞり、至極当たり前な事をヤクニは呟いた。

「何だよ、今更悪りぃと思えてきたとか言うなよ」
「……悪くない」
「は?」

ヤクニの言葉に、キッドは体ごとヤクニの方に向き直った。
赤い瞳と視線が絡まる。
ヤクニの目にはどこか妖しい光が灯っているように見えた。

「私の炎の痕だと思うと、悪い気はせんな」

そう言って、笑う。
妖艶、という言葉でしか言い表せないその笑みに、キッドはゾクリとした。
ヤクニの腰に腕を回し、そのままベットへと押し倒す。
そして唇を塞いだ。
角度を変えて、何度も口づける。
ヤクニもそれに答え、舌を絡ませた。

濃厚なキスを終え、キッドはヤクニの額に軽く口づけた。

「あぁ、そうだな。悪くねぇ…」






室内に粘着質な水音が響く。
二人はベットの上で体を繋げていた。

「あっ…っ!」

ヤクニの首筋に、キッドの犬歯が食い込む。
ギリギリと噛まれ、ヤクニの肌に血が滲む。
しかし、どんなに激しく身を重ねても、ヤクニの体にその痕は残らない。
それが何だか悔しくて、キッドは荒々しくヤクニを突き上げた。
ぐちゅっ!っと湿った音がなる。
硬く長大なペニスに突き上げられ、ヤクニの喉からヒュっと空気が漏れた。

「き、っど…!ぁっ…い…っ!」

容赦のない動きに、ヤクニは頭を左右に振って悶えた。
逃れようと動いた手を、キッドの能力で拘束する。

「残してぇな」

キッドの呟きに、ヤクニは目を開いた。
腰の動きが少し緩やかになる。

「な、にを…だ?」

聞き返すヤクニに、キッドは笑った。
そして、首筋に滲んだ血を舐めとる。
キッドのつけた噛み傷はすでに治っていた。
傷の残らない、綺麗な褐色の肌にキッドはまた噛み付いた。
びり、っとした痛みに、ヤクニの喉が跳ねる。

「俺の、痕」

その言葉に、ヤクニは赤い目を大きく見開いた。
そして、笑う。

「もっと強く…キッド」

動かせない手の代わりに、脚を絡ませる。

「甘噛みでは、残らぬぞ」

耳元で囁かれた言葉に、キッドは一瞬動きを完全に止めた。
ヤクニの中に埋めたペニスがドクリと大きく脈打つ。
それに反応したヤクニが、小さく喘いだ。

「…っ、本当にお前は…飽きねぇなっ!」

「最高だ」と囁き、キッドはヤクニの鎖骨に噛み付いた。
到底、甘噛みなどとは言えない強さで、ギリリと皮膚を食い破る。
血が滴り、鉄臭い匂いが広がった。
野蛮な、獣じみたセックスに二人の興奮は高まっていく。
白いシーツにヤクニの血が染み込み、模様を描いた。

これだけ血を流しても、朝になればヤクニの体は綺麗に治ってしまう。
分かっていても、キッドはヤクニに自分の痕を残したいと思った。
銀色に光る所有印だけではまだ足りない。

ズパンっ!ズパンっ!ズパンっ!
止まる事なく腰を打ち付ける。
ヤクニは突き上げられる度に、脳に直接甘い刺激を与える声を上げた。
たまらず、キッドはヤクニに口づけた。
濃い血の味がするキスに、ヤクニが薄く目を開く。
鋭い牙が、キッドの唇に食い込んだ。
しかしキッドはそれに構う事なく、角度を変えてより深く口づけた。
血と舌を絡ませ、すする。
ヤクニの目は恍惚としていた。

これでは、どちらがどちらを喰らっているのか分からない。

赤く染まった唇を満足げに舐めるヤクニを見て、どちらでも構わないとキッドは思った。




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