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29

テーブルの上には酒と料理が並んでいた。
料理を取り分けた小皿を、キッドがヤクニに手渡す。ヤクニはそれをもくもくと食べていた。
そんな二人と向かい合う位置に座ったキラーは、その光景に慣れてきている自分に焦りを覚えつつも小さく咳払いをする。
キッドはグラスの酒を飲み干し、キラーへと視線を向けた。

「明日の昼に、次の島に着く」

キラーはそう言って、両手を組んだ。
次の島、と聞いてヤクニも手を止める。

「職人の島、カーティアだ。海軍の駐屯地もある」
「ログはどのくれぇなんだ?」
「1週間だ。そろそろ船のメンテナンスも必要だからな、丁度良いだろう」

「だが…」とキラーは言葉を切った。
そしてヤクニを見やる。
仮面越しにも視線を感じたヤクニは、不快そうに眉間にしわを刻んだ。

「なんだ、仮面」
「…前の島と違って海軍がいるからな。少なくとも物資の買い出しと船のメンテナンスが終わるまでは、目立つようなことはするな」

キラーの言葉に、ヤクニはさらに眉をつり上げた。
不機嫌さを隠すことなく、キラーを睨みつける。
キラーはため息をつき、助けを求めるようにキッドを見やった。

「ヤクニに目立つなって言ったって無理だろ」

キッドはそう言って酒をグラスに注ぐ。
海軍のことなど何も気にしていないようだ。

「カーティアで物資を揃えた方が、この先役立つんだ。目立たない方法を少しは考えろ」

流石にキラーの声に呆れが混じる。
キッドは仕方なく考えるポーズをとった。

「じゃあ、次の島では人を殺すの禁止ってのはどうだ?」
「…私とせっくすしたがる人間もか?」
「それは殺す」
「……もう勝手にしろ」

ログの長さと海軍の駐屯地であることを考慮して、上陸前に話をしたというのにキッドもヤクニもキラーの言っていることをまともに取り合わない。
キッドの背中の火傷はほぼ治っているし、ヤクニの炎の強さは確かなものだ。
戦力だけで考えれば、海軍を蹴散らすことは可能だ。
問題は物資の調達と船のメンテナンスが困難になることなのだが、この様子ではそれを説明したところで無駄だろう。

「じゃあ、炎は禁止ってことで良いだろ。気に食わねー奴は俺が殺す」
「なぜ私が指図されねばならんのだ」
「細けぇこと気にすんなよ。ん?キラー、飲まねぇのか?」

キッドがキラーのグラスを見る。
ヤクニは文句を言いながらも再び料理に手をつけていた。
キラーはテーブルの上のグラスを手に取った。






柔らかな朝日が射し込む。
私はゆっくりと目を開いた。

すぐにキッドの顔が目に入る。鮮やかな赤い髪が朝日に輝いて見えた。
広い寝台でキッドとともに寝るようになったのは、あの島を後にしてからだった。
もちろん私は拒んだが、結局最後はキッドの能力でねじ伏せられた。
そのまませっくすをする時もあれば、今日のように何もせずに眠ることもある。
人の体温がすぐ側にあるというのは、なかなか慣れない感覚だった。
だが、悪くはない、と思った。

キッドはまだ起きる気配がない。
朝には弱いのだ。
私はキッドの広い胸板に顔を寄せた。
耳をあてると心の臓が脈打つ音が、はっきりと聞こえた。
その音を聞きながら、目を閉じる。
気づけば私は再び眠りに落ちていた。




結局二人で目を覚ました時には、船は次の島に到着していた。



上陸し、船を下りてから、私はあまりの人間の多さに固まってしまった。
前の島とは全然様子が違う。
見渡す限りの人、人、人。
至る所から煙が上がり、金属を打つ音や木材を切る音が響いていた。
死体が転がっている事もなく、道は綺麗に整備されている。
女も子どももテキパキと働き、町は活気に満ちあふれていた。
仮面は確か、何の島と言っていたか。

「おもしろそうなモンがあんな」

隣にいたキッドがそう言って歩き出す。
私は慌ててその後に続いた。
気を抜けば人間に流されてしまいそうなくらいに、人間が多い。
気分が悪くなる。

「ヤクニ、どうした?」

キッドが不思議そうな顔で私の方を振り返った。
そして視線を下に向ける。
見ると、私は無意識のうちにキッドの着物の裾を掴んでいた。
すぐに手を離す。いや、離そうとした。
しかし私の手は動かずにキッドの裾を掴んでいた。
キッドがそうさせたのだ。
顔を上げると、キッドが笑っている。
大きな手のひらが私の手を握った。

「ほら、行くぞ」

私は答える代わりにキッドの手を握り返した。



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