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27

銀色の髪が太陽の光を反射する。
キラキラと輝き、海風に吹かれてなびく。

ヤクニはキッド海賊団の船に乗って、フリードインゼルを後にした。
キッドの予想に反して、ヤクニは何の抵抗もせずに船に戻った。
島に着くまでと口にしてはいたが、フリードインゼルに留まるのは嫌だったのだろう。

「ヤクニ」

キッドが呼ぶと、赤い目がちらりと振り返る。返事はない。
それに構わず、キッドはヤクニの隣に歩み寄った。
銀の髪を撫でる。すぐに「触れるな」と手を振り払われるかと思ったが、意外にもヤクニは黙ったままだった。
指に絡まることなく、艶やかな髪はするりと流れていく。
赤い宝石のような輝きを放つ角が、キッドの目に止まる。
それに触れようと、そっと手を伸ばす。
しかし、キッドの手は呆気なく叩き落とされた。

「調子に乗るな」
「良いじゃねぇか、触るくらい」
「良くないわ」

ヤクニはそう言ってキッドを睨んだ。

「これは父から授かった大切なものだ。気安く触れるな」
「じゃあ大事に触るからよ」
「屁理屈を…ん、何だあれは?」

頭上を見上げるヤクニに、キッドも上を見た。
新聞をつめた鞄をさげて、大きな鳥が空を飛んでいる。
鳥は空中で大きな円を描きながら降下してきた。
二人がそれを見上げていると、船室のドアが開いた。
甲板にやって来たのはキラーだった。

「キッド、ここにいたのか」
「あぁ、新聞来てるぞ」

キッドが空を指差す。
キラーは見上げ、そして頷いた。

「丁度良い、フリードインゼルでは売ってなかったからな」

その間も、ヤクニは鳥を凝視していた。
見つめられた鳥はヤクニが新聞を買いたがっていると思ったらしく、ヤクニのすぐ側に降り立った。
近くまで来るとかなり大きな鳥だ。
鳥は役目を果たすべく、ヤクニに新聞を差し出した。
ヤクニは鳥を見上げ、首を傾げた。つられて鳥も首を傾げる。
その様子を見て、キッドは思わず笑った。

「何がおかしいのだ?」
「良いから、受け取ってやれよ」

キッドに言われ、ヤクニはそっと新聞に手を伸ばした。
新聞を受け取り、キッドを振り返る。
「これで良いのか?」と聞こうとしたヤクニを、鳥が慌てて引っ張った。

「な、何だ?」

着物の裾を嘴ではさまれ、ヤクニは困惑した顔で鳥を見た。
鳥はというと、大きな羽をバタつかせて必死に何かを訴えている。
人間相手には容赦ないヤクニだが、動物はその限りではないらしい。

「は、放さぬか、何だというのだ?」

オロオロと視線をさまよわせ、助けを求めるようにキッドを見る。
そんなヤクニの姿を見て、キッドは声なく笑っていた。
悪戯好きの子どものようだ。

「…まったく、くだらん事を」

黙って眺めていたキラーはため息をついて、ヤクニに歩み寄った。
そして鳥の鞄に新聞代を入れる。
代金が支払われたのを確認した鳥は、すんなりとヤクニの着物を放した。
ぺこり、と一礼して空へと羽ばたく。
ヤクニは訳も分からずにそれを見つめていた。

「それの代金を貰っていないと言っていただけだ」

キラーに指差され、ヤクニは自分が受け取った新聞に目をやった。
見た事のない文字に眉を寄せる。
そして未だに笑っているキッドに鋭い視線を向けた。

「キッド、笑い過ぎだ」

キラーがたしなめるように言うと、キッドは軽く咳き込みながらもようやく笑うのをやめた。

「悪い、困ってるヤクニが面白くてつい、な」
「困ってなどおらぬわ馬鹿者が」

ヤクニはそう言って丸めた新聞をキッドへ投げつけた。
新聞をキャッチしたキッドは「そーかよ」と軽くヤクニを流し、紙面に目を落とす。
当然のように新聞を読み始めたキッドを見て、キラーはまたため息をついた。

「俺が買ったんだが」
「一面くらい良いだ…」

キッドの言葉が不自然に途切れる。

「どうした?」

キラーが訊ねると、キッドは折り込みで入れられていた手配書を出して見せた。
それを見てヤクニは、ほぅ、と感心したように呟いた。

「よく描けておるな、その似顔絵」

キッドが持っていた手配書にはフリードインゼルで鎮魂の歌を奏でるヤクニの写真と、『鬼笛のヤクニ』『3000万ベリー』の文字があった。

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