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「無駄に炎使うなって言っただろが」

息絶えた男の体を蹴飛ばしたのはキッドだった。
私はそれに「知らん」とだけ返す。
キッドは特に気にした風でもなく、私の隣に腰を下ろした。
周りの人間達は恐怖に固まっている。誰かが「悪魔の実の能力者だ…」と呟いた。
悪魔の実?何の事だろうか。
ここは私の知らぬものが多すぎる。

キッドのあとからあの仮面もやって来た。
もうキッドは殺さぬと言ったにも関わらず、この仮面はまだ私を警戒していた。
出来るだけ見張っておきたいのだろう。
くだらぬ。

「んで、コイツ何したんだよ?」

キッドの言葉に、私は視線を仮面から逸らした。
顎で指す方向には私が先ほど焼き殺した男の死体がある。

「私に触れてきた」
「あ?」

キッドの周りの空気が一気にざわつく。
私は気にせず続けた。

「ここの人間達は皆頭がおかしい。なぜ、私を恐れずに触れてくるのだ?しかもこの男、私とせっく―…」
「来い、ヤクニ」

最後まで言いきる前に、キッドが力強く腕を掴んで来た。
振り払おうにも能力を使われているらしく、手はびくともしない。
私は腕を引かれるままに立ち上がった。
仮面がキッドを呼び止める。が、キッドはそれに答えない。
早足で進むキッドに、私は走ってどうにかついて行く。

「はっ放さぬか!」

怒鳴ってもキッドは聞く耳を持たなかった。
こちらを振り返りもしない。
ここ最近はとても機嫌が良かったというのに、一体何がキッドの怒りに触れたのだろうか。

キッドは店の者を睨んで引かせ、階段を上った。
上の部屋は色事に使うためだけに用意されているらしく、至る所から耳障りな喘ぎ声がした。
下の階にいた時は、周りがうるさ過ぎて聞こえなかった。

「き、キッド?何を―…」
「うるせぇ」

ある部屋の扉を乱暴に開ける。中には既に裸になって絡み合う男女がいた。
急に現れたキッドを見て、男は固まり女が叫ぶ。
キッドはそんな二人に「出ろ」とだけ言って、扉を親指でさした。
男がもつれる足を動かして、部屋を転がり出る。女は置いて行かれていた。
白い布を体に巻き付けた女は、怒りや恐怖の入り交じった顔をしていた。
そんな女にキッドが舌打ちをする。
女は細い肩を大袈裟に跳ねさせ、慌てて部屋を出て行った。

バタンと扉の閉まる音がした。
それと同時に、空になった寝台へと叩き付けられるような勢いで押し倒される。
息が詰まり、軽く咳き込む。
相変わらず腕は動かない。
私はキッドを睨もうと顔を上げ、そのまま固まってしまった。
キッドの瞳には、怒りとは違う感情が滲んでいた。
前にも似たような表情を見た事がある…。
船の壁を破壊して乗り込んで来た男達に、鎖を外された時だ。

「どこだ」
「……は?」

キッドが唐突に口を開いた。
脈絡がなさすぎて、何の事を問うているのか全く分からない。
私が首を傾げるとキッドは苛立たし気に息をついた。

「だから、どこを触られたのかって聞いてんだ!」
「あ、…え…?それが何かキッドに関係あるのか…?」

言い直されても、問いの意味は分からぬままだ。
男に体を触られた、それだけで話は済んだのではないのか?
私の言葉に、キッドはさらに苛立っていた。

「あるに決まってんだろ!お前は俺のものだ」

ぐしゃ、と乱暴に髪をかき上げる。そのままキッドは上着を脱いだ。
大きな手のひらが私の体に触れる。
顔から胸へと、ゆっくり移動するそれに私は体が熱くなるのを感じた。
キッドはせっくすをしようとしている。
何日間か強いられる事のなかった情事に、心臓が勝手に高鳴った。

「ここは?」
「ふ、触れ、られた」
「クソ、…じゃあ、ここは」

キッドの手が胸から腰へと移る。同じ場所を触れられても、キッドだとなぜか殺意が湧かない。
それどころか、体は熱くなる一方だった。
私が黙って頷くと「言え」と強くキッドに命令された。
普段であれば私に命令するなと返せるというのに、今はできなかった。
固い手が、着物の上から体をなぞる。

「あっ…触れられ、た…少し、だけ」
「お前にヤらせろって言ってきたのか」
「や、やらせろ…?」

キッドが帯をほどく。私の着物を脱がすのはもう手慣れたものだった。
手元を見もせず、着物を開いていく。

「お前とセックスしたがってたんだろ、アイツ」

耳元でキッドが囁く。私は反射的に目を瞑った。
下腹部に、キッドのモノが押しつけられる。
少し固くなったそれは、あの男のモノよりも大きかった。

「その、あの男が、性器を押しつけてきて、良いだろと、言っ―…」

続きは言葉にならなかった。
キッドの唇が私の口を塞ぐ。
葉巻を吸わなかったから、キッドの口からは酒の味がした。

この、きす、は悪くない。

激しいきすは長かった。
キッドは私にきすしたまま下の着物も脱いだらしく、足の付け根辺りにぬめり気を纏った熱が触れる。
私の着物はすでに手足からも抜け、完全に剥がされていた。
キッドの髪に触れたくて、腕を動かす。
すんなりと腕が動いた。
キッドはもう手枷の輪を操っていなかった。
逆立ててある赤髪を、私の手で乱す。
太い首に抱きつくようにして、私はキッドのきすに答えた。

やっと唇が離れた時には、キッドの息が上がっていた。
寝台からはいろんな人間の臭いがする。
その臭いは不快で仕方ない。が、それすらもどうでも良くなる。

「ヤクニを、そんな目で見る奴は、皆殺しにしてやる」

ついばむように何度も私の顔に唇を落としながら、キッドはそんな事を言った。
あんな男がまた現れたら、キッドが殺さなくとも私が殺す。
何も気にすることはないというのに、キッドは「俺が、殺す」と繰り返した。
そのどこか必死な様相に、私は何故だか嬉しさのようなものを覚えた。

「キッド」

下りてきた前髪をかき上げ、白い額にきすをする。
驚いたように目を見開くキッドに、私は微笑んだ。

「では私は、キッドを『そんな目』で見る人間を、皆殺しにしてやろう」

自分でそう口にした時、ならばあの女は殺さねばな、と出窓でキッドを見下ろしていた女の姿を思い出した。




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