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21


*


キラーは二人の姿を見て己の目を疑った。


「よぉ、キラー。お前も飲むか?」


キッドが上機嫌でボトルを持ち上げる。
その隣には鎖に拘束されていないヤクニが座っていた。
両手で持った盃の匂いを嗅いでいる。
その顔に敵意はなく、キョロキョロと辺りを見回す姿は子どものようだった。


「…………どういうことだ」


たっぷりの間を置いて、キラーはそれだけ呟いた。

キッドは困惑するキラーをそのままに、盃の酒をちろ、と舐めているヤクニの肩を叩いた。
赤い目がキッドを向く。


「ヤクニ、コイツはキラーだ。結構強ぇから頼りにして良い」
「………」


ヤクニの目がキラーへと向けられた。
透き通った赤い瞳が真っ直ぐにキラーを射抜いた。
穴が空かんばかりに見つめられ、キラーは思わず半歩下がる。


「―…なぜ仮面を取らぬのだ」
「んなこと気にすんなよ」
「いけ好かぬな」


そう言って、ヤクニはくいっと酒を飲んだ。


「ん…これは気に入った。キッド、もう一杯くれ」
「おう」


空になった盃をキッドの方に差し出すヤクニを見て、キラーは体を硬直させた。

あり得ない。
キッドの事を名前で呼んだ上に、キッドに酌をさせているだと?

しかもキッドはその無礼に機嫌を悪くすることなく笑っている。


「き、キッド…?」
「ん?どうしたキラー」
「いや、お前の方がどうしたんだ」


それ、とキラーがヤクニを指差す。
指差されたヤクニはキラーを睨み付けた。


「指差すでないわ、仮面」


言いながらもヤクニはまた酒を飲み干した。
そして今度はキッドの盃にヤクニが酒をそそぐ。
よく見ると、鎖は取り払われているが手首と足首にはまだ鉄の輪がはめられていた。
完全に自由にしたわけではないらしい。
それにしても、つい2週間ほど前に海に落とされ殺されかけたにも関わらず、この扱いはどういう事だ。
不用心どころの話ではない。


「キッド、いい加減にしろ。殺されたいのか」


ヤクニに向けてキラーが殺気を放つ。
するとヤクニがぐっと牙を剥いた。


「仮面、貴様私に殺されたいのか?」


鋭い爪を上に向け、小さな炎を出す。キラーは瞬時に武器を構えた。


「やめねぇか、酒が溢れるだろ」


キッドの一言で、ヤクニはすんなりと炎を消した。
そしてキッドの皿から食べ物を摘まむ。
キラーはそれを見て唖然とした。

どういったわけか分からないが、船長はこの化け物を手懐けてしまったらしい。


「ほら、良いからこっちに座れよキラー」


かつてこんなに上機嫌なキッドを見たことがあるだろうか。
いや、ない。
キラーは武器から手を離さずに、ゆっくりと二人に歩み寄った。
キラーの殺気を肌で感じているのだろう、キッドの隣に座るヤクニの目は鋭い。
美しい顔の造りも相まって、それはかなりの迫力だった。

人一人分の距離を空け、キッドの隣にキラーが腰を下ろす。
そしてキッドから差し出された盃を受け取った。


「んなに警戒すんなキラー、コイツはもう俺達を殺す気はねぇんだと」


俺達と言うより、常に命を狙われていたのはお前じゃないのか。

キラーは受け取った盃を持って「そうか」と曖昧に頷く。
キッドがヤクニのことを安全だと言っても、説得力の欠片もない。
キラーは一度海の中でヤクニの炎を受けかけ、その威力を感じていた。
間一髪で避けたが、あの一撃が当たっていたら今キラーはここにいないだろう。
キッドなど身をもってヤクニの炎の威力を知っている。
一月以上経過しているのに、キッドの火傷がまだ治る兆しを見せないのが何よりの証拠だ。
そんな危険な奴が「殺さない」と口で言っただけで、信じて良いものだろうか。
むしろそれを信じられる者がいるのだろうか。


「おい仮面、飲まぬのか」


ヤクニが首を傾げる。
テーブルの上には何本も空のボトルがあった。
とても二人で飲んだ量には思えない。
ヤクニも相当な量を飲んでいるはずだが、人間じゃないからか顔色は全く変わっていなかった。


「ほら、飲めよ」


キッドが肘でキラーを小突いてくる。
キラーはここ最近よく感じる頭の痛みに、軽くため息を吐いた。
仮面をずらして酒を飲む。
その様子をヤクニは興味深そうにじっと見つめていた。
視線を感じたキラーは、飲み終えると即座に仮面を下げた。


「飲み食いする時も取らぬのか」


妙な奴だな、とヤクニが言う。
お前にだけは言われたくない、とキラーは思った。










酒をひとしきり飲んだ後、キッドが葉巻を取り出した。
それをヤクニが不思議そうに見つめる。
その視線に気づいたキッドはヤクニに一本葉巻を渡した。


「これは何だ?」
「葉巻だ。先端に火をつけて吸うんだよ」


キッドがライターを出して火をつける。しかしオイルが切れていたのか、火は一瞬で消えた。


「火をつければ良いのか」
「あぁ」


ヤクニがキッドのくわえた葉巻の先に人差し指を当てる。
それを見たキラーは思わず腰を浮かせた。
葉巻にボッと小さな火がつく。
そして葉巻から上がる煙に、ヤクニは思い切り眉をしかめた。


「臭い」
「ハハハっ試しに吸ってみろよ」
「嫌だ臭い近づけるな」


本当に嫌なようで、ヤクニは服の袖で顔を隠した。
そしてキッドのくわえた葉巻に手をかざす。
葉巻がボボッ!っと燃え上がり、灰となってぼろりと落ちた。
残ったのはキッドの口からはみ出た、僅か1cmほど。


「その臭いは好かぬ、今日はキスするでないぞ」


ヤクニが眉間にしわを刻んで言った言葉に、キラーはいつキッドとヤクニは恋人になったのか、と気が遠くなるのを感じ、その直後キッドがヤクニに口付けたのを見てどうでも良くなった。



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