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11

*

この人間は気が狂っているに違いない。
そうでなければこんなことを言い出すはずがない。
私は目の前に差し出された人間の手を見て、次に顔を見た。
相変わらず、何を考えているのか全く分からない。
なかなか噛みつかない私を見て、人間はニヤリと笑った。


「どうした?切り分けてある方が食べやすいか?」


そう言って腰の小刀を抜く。
何を言ってるんだコイツは。
私は反射的に頭を横に振っていた。
すると人間は「そうか」と言って小刀をしまった。
訳が分からない。
普通指を食わせろと言われたら拒否するだろう。
そして私に恐怖を覚えれば良いと思っていたのに。
今恐怖を感じているのは私の方だった。


人間を喰らったことなど、ない。
喰らいたくもない。
ただの威しのつもりだった。


「ほら、食えよ」


人間の指が唇を撫でる。
黒く塗られた爪が不気味だ。
人間は私を見て笑う。
嘲笑とは違った。
ただ、愉しそうに笑っている。
それが余計に私の恐怖を煽った。
私は震えそうになりながらもどうにか口を開いた。
人差し指と中指をくわえる。
上顎に爪が当たり、ぞわりとした悪寒が背筋を走った。
それでも人間は顔色一つ変えない。

こうなったら咬み千切って吐き捨ててやろう。

ゆっくりと牙を沈める。
皮膚が破けるのが分かった。
次いで、口の中に血の味が広がる。
私はそれを啜った。



無意識だった。



吐き捨てようと思っていたのに、私は人間の血を飲み込んでいた。
妖気に飢えていたからだろうか、それは酷く美味に思えた。
更に牙を食い込ませる。
肉を千切る感触が心地良い。
じゅる、と血を吸い上げ、喉を鳴らす。


もっと。


ガツ、と牙の先が何か固いものに当たる。
血がとめどなく溢れた。
口の端から溢れぬよう、必死に舐め啜る。
頭の奥が、ジンと熱くなった。

ふいに、頭を撫でられた。
ハッとして目を向けると、人間が私を見つめていた。
指を咬み千切られそうになっているというのに、人間は少しも苦痛を面に出していなかった。
私の牙は既に骨に到達している。
このまま顎に力を入れて噛み砕けば、人間の指は簡単に千切れるだろう。

ポタポタと顎から血が垂れる。
もう啜ることが出来なかった。
こんなことあるわけがない。そう思うのに、私は人間の目から、目を逸らせない。


「美味いか?」


あり得ない。絶対に、あり得ない。

人間がもう片方の手で私の頬に触れた。
鼻先に唇が当たってしまいそうなくらいに近い。

心臓が異様に高鳴る。
錯覚だと思う。

それでも。


私を見つめる人間の瞳が優しく見え―…私は沈めた牙を抜いた。




*




キッドの指の咬み傷は、後少しで切断しなければならなくなるほどの大怪我だった。
血をダラダラと流しながら「咬ませてやった」と言うキッドにキラーは若干の目眩を覚えた。


「キッド、お前は何を考えているんだ…」
「別に指くれぇなら食わせてやっても良いと思ってな」
「良いわけないだろう」


キッドの指は何針も縫われ、包帯を巻かれていた。
この先いつ戦闘があるかも分からないと言うのに、船長が一番満身創痍だった。
しかしキッドの血を飲んだ後の青年は明らかに回復していた。
目に生気が戻り、キッドに抵抗する力もある。
あの後、無理矢理指を食わせようとしたキッドに頭突きを食らわせてきたぐらいだ。
そしてその日を境に、何故か青年は食べ物と飲み物を少しずつ口にするようになった。









キッドは青年に跨がっていた。
見下ろすと、綺麗な眉を吊り上げてキッドを睨み付ける青年と目が合う。


「なぁ、俺の指食わなくて良いのか?」
「貴様、しつこいぞ」


重い手枷を着けたまま、青年が腕を振り上げる。
キッドは片手でそれを止めた。


「お前が食いたいって言ったんだろ」
「やはり要らぬと言ったであろう!」


青年が牙をむく。
キッドは能力を使って青年の手足を床に固定した。


「じゃあ何で最近は俺のやった食い物を食ってるんだ?」
「…そんなの、私の勝手だ」
「そうかよ」


キッドはスルスルと青年の帯をほどいた。
青年の目付きが蔑んだものに変わる。
下の服を取り払われ、青年の下肢が露になった。

キッドが青年を犯すのはほとんど毎日のことだった。
大抵青年がキッドに口答えし、殴られ、キッドの気が昂った後に犯される。
青年は一切声を出さないように耐えて、その凌辱をやり過ごした。
しかし、ここ数日はそれが上手くいかなかった。

キッドが青年を殴らなくなったからだ。


今までは青年のことなど全く考えていないような乱暴なセックスだったと言うのに、今は青年の体を優しく愛撫する。
青年はそうされると、殴られた時とは比べ物にならないくらい怯えた顔をした。
それを見て、キッドは殊更青年に優しく触れる。
吐き出すだけのセックスが、まるで恋人同士の営みのように甘く深くなった。


「や、…やめ、ろ…」


拒絶の声も弱々しい。
痛みのない交わりは、青年にとって苦痛でしかなかった。
青年の息が上がる。
キッドは緩やかに青年のペニスを扱いた。


「痛くねぇだろ?」
「っ…!!」


ローションで滑る指が、青年のアナに挿入される。
それは壊れ物を扱うかのような細かな動きだった。
ビクビクと青年の体が震える。それに対応するように、アナも収縮した。
キッドの指を締め付け、それにまた反応する。
青年は快楽を覚え始めていた。
現に、最初の頃は勃起する兆しもなかった青年のペニスが硬い芯を持っている。
先端からは涙のように先走りが溢れていた。
迫り来る快感の波を耐えようとする青年の表情は、非常に艶やかだった。

キッドが青年の唇に己の唇を寄せる。
柔らかく触れあった瞬間、青年の牙がキッドの唇を噛んだ。
唇から流れる血を、キッドが舐めとる。


「やっぱりお前、最高だな」
「し、ね‥下衆が」


涙で潤んだ赤い目に睨まれ、キッドはぞくりとした快感を覚えた。




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あきゅろす。
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