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8曲目


「あれ、チビがいねぇ」


黒猫に餌をやりに来たシャチは、空っぽのカゴを見て首を傾げた。
最近になって黒猫はどうにか自分の力で立つことができるようになった。
しかしまだ自力でカゴから脱出できるほど回復していない。
一体誰が連れ出したのだろう、とシャチは船内を歩き回った。


「どうしたシャチ」
「あぁペンギン、チビ見なかったか?」
「チビなら船長の所じゃないか?」


「船長なら書斎にいるぞ」と続けてペンギンが言うと、シャチは餌と水を両手に苦笑した。


「歩けるようになるまでとか言って一番船長が骨抜きにされてるよなぁ」
「確かにな」


二人は同時に笑った。




ペンギンの言った通り、ローは書斎にいた。
シャチがノックと共にドアを開ける。
ローの膝の上で丸まっていた黒猫がハッと顔を上げた。


「おい、返事の前に開けるな。ノックの意味がないだろが」


不機嫌そうな声でローが言う。しかしその手は黒猫を撫でており、迫力は皆無だ。


「ハハハ、すんません!チビが腹減らしてると思って」


シャチの言葉にローは視線を黒猫に下げた。
クリクリとした黄色の瞳が期待に輝いている。
グズったりはしなかったが、余程お腹が減っていたらしい。
本を読んでいる時、ローは時間を忘れてしまうのだ。
黒猫の餌の時間になったのにも全く気づかなかった。


「…お前、腹が減ったらそう言え」


ローが黒猫の鼻を軽く摘まむ。
黒猫はそれに答えるように「ろぅー」と鳴いた。


「あ、今コイツ船長の名前言いましたね。最近特に上手に言えるようになったと思いません?」


シャチが近づくと黒猫の目は餌に釘付けになった。
尻尾がゆらりゆらりと嬉しそうに揺れている。


「気のせいだろ」


ローは素っ気なく答えた。
しかし、声に不機嫌さは滲んでいなかった。

黒猫がローの膝からシャチの腕の中へと移される。
黒猫は赤ん坊がミルクを飲むように、一生懸命餌を吸っていた。
最初のうちはボロボロと餌を溢していたが、今はもう上手に全て飲み干せている。
しかも速い。
飲み終わると毎回「足りない、もっと欲しい」と目で訴える。
今のところそのおねだり攻撃が通用したことはない。
ローが定めたメニューは絶対なのだ。

黒猫の食べっぷりを眺めていたローは、ふいに紙とペンを取った。
サラサラと何やら書き込む。
シャチはそれに気づかず黒猫に水をあげていた。


「シャチ」
「はい?」


シャチがローの方を見ると、ローが小さな紙を差し出していた。
黒猫に水をやる手を止め、紙を受け取る。


「明日からはこのメニューに変えろ。餌やりの時はスプーンを使え」
「おぉ!やっと流動食卒業出来るんスね!」


シャチが喜びの声を上げる。
それを聞いた黒猫は明らかに目を輝かせていた。


「調子に乗って食い過ぎるなよ」と、ローは黒猫に言った。



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