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7曲目『はじめての航海』

2週間目にしてようやく俺は、ここが船の中だということを知った。
ローが最後に故郷を見ておけと言って、甲板に連れて行ってくれた時だ。
それまでは一度も外に連れ出してもらえなかったから、ここが海の上だなんて少しも分からなかった。

ローはあの焼け焦げた島を俺の故郷だと言った。
しかし、俺はどうも違うような気がしてならなかった。

そもそも、俺には何の記憶もない。
自分が猫であると言うことさえ忘れていた。
と言うよりも、最初自分は人間だと思っていた。
名前も親も故郷も何もかも、何一つ覚えていない。
思い出そうとしても、脳裏に浮かぶのは灼熱の炎だけだ。
一体どういう経緯であの炎の中にいたのかは全く分からない。

あの島は、本当に俺の故郷なのだろうか。








ローが俺の包帯をゆっくりと取る。
足の調子はだいぶ良い。
もう膿も出なくなった。
まだ立つことは難しいが、転がって移動することなら出来るようになった。


「もう少ししたら包帯も取れそうだな」
「本当?良かったねー猫ちゃん」


ベポが喜ぶ。
白くて大きな手にお腹を撫でられ、俺は前足でそれを押さえた。


「あ、こら、薬塗るまでじっとしてろ」


ローに足を摘ままれる。
俺は大人しく従い、早く終わらせてくれとみぃみぃ鳴いた。
刺青の入った手が器用に動く。
ローはあっという間に薬を塗り終え、綺麗に包帯を巻いてくれた。
いつも思うことだが、ローはとても手際が良い。
獣医なのだろうか。
獣医って感じの顔じゃないけど…でもベポもいるしな。
そんなことを考えていると、「終わったぞ」とローから鼻をつつかれた。
くすぐったくて思わず前足で顔を隠す。
包帯が当たって余計にくすぐったかった。
くしゅっ!と小さくくしゃみをすると、ベポに笑われた。




船の揺れは特に感じなかった。
カゴの中から周りを眺める。
視界は狭い。なんてったって俺はこのカゴの中から出られない。
タオルはふわふわだし、気持ち良いのだけれど、いつもいつもカゴの中ではいい加減つまらない。
俺は顔を上げて出来るだけ大きな声でローを呼んだ。
俺が入れられているカゴは人の多い部屋に置かれていた。
休憩所のような所なのだろうか。
俺に何か異変があれば直ぐに様子を見れるようにと置いてくれたらしい。
「ろぅ、ろぅー」と鳴く俺に、周りがざわめく。
カードゲームをしていた数人の男達が近寄ってきた。


「おいどうしたチビ助」
「船長呼んでんのか?」
「腹が減ってるのかも」
「トイレじゃねぇのか?」


何やら口々に言っているが、とりあえず俺は正面に立っている男に両手を伸ばした。
鳴きながらこうすれば、大体抱っこしてもらえるのだ。
案の定男は俺を抱き上げ、カゴから出してくれた。


「何だ、抱っこして欲しかっただけか」


抱き上げられた途端に静かになった俺を見て、男達が笑う。


「どうしようもない甘えん坊だなー」


そんなことを言いつつも嬉しそうだ。
仕方ないから他のヤツにも甘えてやろう。

頭を撫でてくる手に鼻を擦り付けて、みぃ、と一声鳴いた。




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あきゅろす。
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