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6曲目


「ねぇねぇキャプテン、この子に名前つけようよ」


黒猫のお尻を拭きながら、ベポが言った。
ローは黙って本を読んでいる。
ベポの提案は聞かなかった事にするつもりらしい。


「キャープーテーンー!」
「ログが溜まるまでだと言っただろ」


ページを捲る。
ローの視線は相変わらず本に向けられていた。


「でも島にこの子の親いなかったじゃん」
「どっかに隠れてるだけだ」
「隠れる場所なんてないよ!全部燃えちゃったのに」


ベポは綺麗なタオルで黒猫の体を包んだ。
ローとベポを交互に見る黒猫を、優しく撫でる。


「この子、ここに置いて行ったら一人ぼっちになっちゃうよ」


黒猫は何か言いたそうにみぃみぃと鳴いた。
「ほら、この子も一緒にいたいって言ってるよ」とベポがローにだめ押しで言う。


「適当なことを―…」


言うな、と続けようとした時、黒猫が「ろぅー」とか弱い声で鳴いた。
ローが目をわずかに見開く。


「キャプテン今の聞いた!?キャプテンの名前呼んだよこの子!」


ベポは黒猫を顔の高さまで持ち上げ、「ベポって言ってごらん」と無理なことを言う。
黒猫は精一杯喉を震わせて、みぃみぃ鳴いた。


「ベポは難しいだろ」
「やっぱり無理かぁ…」


ローは本を閉じて立ち上がった。
黒猫に近づく。
黄色の瞳は真っ直ぐにローを捉えていた。


「…まだ歩けないのか」


ローの言葉に黒猫は首を傾げた。
黒猫の手足はまだ包帯でぐるぐる巻きにされていた。
歩くどころか立つことも出来ない。


「歩けるようになるまで、だな」


ローはそう言って、黒猫の頭を撫でた。







その次の日、ログが溜まった。

次の島に向けての進路が決まる。
ローは黒猫を抱えて甲板に出た。
すれ違うクルー達は皆不安そうにそれを見ていた。
ローが黒猫を島に置き去りにするのではないか、と思っているようだ。


「船長!」


シャチがローを呼び止める。
ローは黙って振り返った。


「そいつ、置いてくんですか?」
「あぁ?何を早とちりしてやがる」
「へ?」


黒猫がローの手に額を擦り付けた。
ローはそれを見て小さく笑い、黒猫を島の方へ向かせた。


「もう二度と戻れないだろうからな。最後に故郷でも見ておけ」


それは黒猫に向けられた言葉だった。
黒猫の目が丸くなる。
視線の先にあったのは黒く焼け焦げた小さな島だった。


「お前、足が治る前にログが溜まって良かったな」


ローが黒猫の耳をちょいちょいと摘まむ。
とても嬉しそうだ。
そんなローの様子を見て、さっきまでハラハラしていたクルー達は密かに安堵のため息をついたのだった。




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