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5曲目

食事の味は美味しかった。
食感は悪いけれど、喉を痛めた今の俺にはちょうど良かった。
しかし、その後の薬は最悪だった。
苦い。苦すぎる。
男が「吐くかもしれない」と言ったのも分かる。
それくらい苦かった。

どうにか薬を飲み込むと、男が水を飲ませてくれた。
口の中に残った粉を出来るだけ流そうと必死になって水を飲む。
飲み終わると同時に軽く咳き込んだ。


「咳してるよ?大丈夫なの?」
「ちょっと噎せただけだろ」


込み上がるものを何とかやり過ごし、俺は顔を上げた。


「よく頑張ったな」


男が笑う。
さっきはこの野郎って思ったけど、何だか怒りは一瞬で消えてしまった。




それから毎日、俺は白熊のベポとあの男‥キャプテンに世話をしてもらった。
時々シャチとかペンギンとか呼ばれている男たちも来て世話をしてくれた。
トイレについてはどうしても嫌だったから便意も尿意も我慢していたのだが、薬を飲まされお湯で濡らしたタオルで股間を撫でられ…抗えなかった。
キャプテンが深刻に心配していたから、もう耐えるのは止めようと思う。

助けられてから5日目。
俺はようやく声を出せるようになった。
まだまだニャーとは鳴けない。
カスカスの声だが、みぃみぃ言えるようになったのだ。
初めて鳴いた時、ベポは俺を抱えて直ぐ様キャプテンのところにダッシュした。
キャプテンは俺の鳴き声を聞いて笑った。




ある日俺の食事をやりにシャチとペンギンが来た。
キャプテンとベポはどこかに出掛けているらしい。


「何かコイツ、時々船長の名前呼んでるみたいな鳴き方するよなぁ」


シャチが俺に水を飲ませながらそう言った。
それにペンギンが首を傾げる。


「そうか?」
「時々だけどよー「ろぅー」みたいな感じで鳴くだろ?」
「シャチ、今の鳴き真似か?」
「うっせーな!似てねぇのは分かってんだよ!いちいち突っ込むなってのっ」


ろぅ?俺、そんな鳴き方してたか?
と言うかキャプテンはキャプテンじゃないのか?
ろぅ、って言うのか…?

俺は水を飲み込んで、「ろぅー」と鳴いてみた。

「ほら!今の聞いたか?めっちゃハッキリ鳴いてただろ?」
「あぁ、今のは確かにローって聞こえたな」


シャチが「もっかい言ってみ?」と言いながら俺の顎を撫でる。
俺は試しに「シャチ、ペンギン」と言ってみた。
しかし口から出るのは、みぃみぃと言う鳴き声だけだった。
やっぱり俺はベポみたいに話せないらしい。


「何だーまぐれか」
「当たり前だ、猫が喋るわけないだろう」
「まぁ、そうだよな」


話せたら良いのにな。
俺はそう思いながら、ペンギンが差し出している注射器の先をくわえた。

そろそろ流動食以外の物が食べたい。
肉とか、肉とか肉とか。
これは食べた気がしないから、いつも直ぐにお腹が減る。
1日寝転がったまま何もしなくてもお腹が減るのだ。


「お、餌溢さなくなったな」
「チビのくせに食い意地はってるからな」


ペンギンが苦笑する。
チビとは何だ、チビとは。
俺はきっと今成長期なんだ。
食い意地はってて当然だろう。
そんなことを考えていると食事の時間はあっという間に終わった。
いつも決められた量しかもらえないから、無駄だとは分かっているのだが…それでも俺は二人を見上げてしまう。
この二人ならキャプテンもいないし、多目にくれるのではないだろうか。
そんな淡い期待を込めて見上げたのだが、「そ、そんな目で見ても駄目だかんな!」とシャチに言われてしまった。



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あきゅろす。
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