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4曲目

青灰色の目、浅黒い肌、短い黒髪。
顎ひげは無精髭という雰囲気ではなく、お洒落な感じだった。

この男は誰だろう。

白熊がキャプテンと呼んでいるからキャプテンと言う名前なのだろうか。
男は俺を見て小さく笑った。
カッコいい。


「ベポ、この材料でコックに餌を作らせろ」
「アイアイキャプテン!」


男は紙切れを白熊に渡した。
白熊は元気良く返事をして、どこかへ走って行ってしまった。

ギィ、と木の軋む音がする。
男が俺の目の前に座っていた。
長い指先が俺に伸ばされる。
逃れようにも体が上手く動かないので、俺は出来るだけ体を小さくした。


「お前臆病なんだな」


やわやわと頭を撫でられる。
耳の後ろを撫でられると何だかとても気持ち良かった。


「崖から飛び降りれるくせに」


そう言いながら男が笑う。
少しだけ口の端を上げる笑い方。やっぱりカッコいい。

顎の下を撫でられ、俺はぐっと顔を上げた。
気持ち良さに目を細める。
しばらくして、男の指が離れた。
何だか物足りない。
声に出して訴えようと口を開けたが、喉からはシューシューと空気の出る音だけしかしなかった。
声が出せない。


「煙で喉を痛めたか」


確かに喉に痛みを感じる。
手足も火傷しているようだし、どうやら俺は火事の中逃げ出してきたらしい。
男は俺を撫でながら「無理に声を出すな」と言った。
猫の俺に話しかけるなんて変な奴だ。
でも悪い気はしない。
俺は男の手のひらにすり寄った。

ありがとう、とお礼のつもりで。




*




「冷ましただろうな」
「大丈夫!完璧だよキャプテン」


ベポは注射器に入れた流動食を触って温度を確かめた。
熱すぎたら黒猫が口の中まで火傷してしまう。
ローも触って確かめると、やって良しと頷いた。
ベポは嬉しそうに黒猫を抱き上げた。
黒猫はベポの手のひらの上で、コロンとお腹を上に向けている。
視線は注射器に釘付けだった。
中身が気になるのか小さな鼻をヒクヒクと動かしている。


「食べれるかなー?ほら、口開けて」


赤ん坊に話しかけるような口調で、ベポは黒猫に話しかけた。
黒猫は言われるがままに小さな口を開ける。
「この子賢いね」と言いながら、ベポは黒猫の口の中に注射器を入れた。
少しずつ流動食を流し入れていく。
黒猫は必死に舌を動かしていた。


「おい、もっとゆっくりやってやれ。口の端から溢れてるぞ」
「あ、ごめんね」


飲み込みきれずに溢れてしまった流動食を、横で見ていたローが拭ってやる。
黒猫は口の周りを自分で舐めようとしていたが、どうにも上手くいっていなかった。
舌を動かす度にポロポロと溢している。


「ちょっとずつ食べようね」


ベポはゆっくりと注射器を動かした。





流動食を全て食べ終わると、黒猫は物足りなさそうな顔でベポを見上げた。
声は出さないが、顔にまだ食べたりないと書いてある。
ベポは思わずうっと言葉を詰まらせた。


「きゃ、キャプテン…」
「駄目だ」


ベポがおかわりをお願いしようとする前に、ローがピシャリと切り捨てる。
「まだ何も言ってないのに」とベポはしょんぼりしながら黒猫をカゴに戻した。


「薬飲んだら吐くかもしれないからな」
「えぇ!?そんな苦いの?」


ローの言葉に、カゴの中で寝転んでいた黒猫の耳がピンと立った。


「粉薬だ。さっき舐めてみたが、なかなか苦いぞ」
「えー絶対飲まなきゃダメなの?」
「何グズってんだ。お前が飲むわけじゃないだろ」


ローは小さなスプーンに薄ピンクの粉薬をすくった。
耳をプルプルと震わせている黒猫に向かう。


「気を楽にしろ」


良い笑顔でそう言った。



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あきゅろす。
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