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3曲目


「水飲めるかなぁ」


俺は体が硬直しているのを感じていた。
意識ははっきりしている。今ちょっと気絶しそうではあるが、さっきよりかはだいぶマシだ。
しかしこれは一体どういった状況なのだろう。
目の前に白熊がいる。服を着ている。
なかなかに眩しいオレンジ色だ。
さっき俺を覗き込んでいた人はいない。
白熊は右手に針のない注射器のようなものを持っていた。
なんだあれ。あれで俺に何をするつもりなんだ。
逃げようにも手足の感覚がない。
俺は白熊にされるがまま体を持ち上げられた。
この白熊デカ過ぎないか?
俺を手のひらの上に乗せてる…?
そもそも何で俺はこんなにちっさいんだ?


「はいはい大丈夫だよーキャプテンが手当てしてくれたから火傷もあっという間に治っちゃうよ」


白熊はそんなことを言いながら注射器のようなものを俺の口に近づける。
口の中に先端が入った。
そのままプシューと押し込まれ、口の中に冷たい液体が満ちるのを感じた。
必死になってそれを飲み干す。
水だ。
喉を通過する時の気持ち良さに、俺は思わず目を細めた。
すると白熊が「可愛いなぁ」と言って笑う。
何だか恥ずかしかったが、一口飲むと思い出したかのように喉が乾き、止まらなかった。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲む。
ちゅっと注射器のようなものが口から抜かれた。
まだ足りない。
俺は、もっと欲しいと口を開けた。


「ごめんねーキャプテンがね、あんまり一気に飲ませるなって言ってたからとりあえず今はこれだけ」


白熊はそっと俺の頭を撫でると、柔らかなシーツの上に降ろした。
降ろされても相変わらず体は動かない。


「でも思ったより元気そうで良かったー」


白熊が黒い瞳で俺を見つめる。
真ん丸くて大きな目。その中に猫が映っていた。



猫…?




そこで俺はようやく、「あぁ、俺って猫なんだ」と気づいた。



*


子猫の手当てを終えたローは、動物関係の本を探しに書斎にいた。
ページをパラパラと捲り読んでいく。
コンコン、とノックの音がした。


「入れ」


ローは本から視線を上げることなく答える。
ドアを開けたのはベポだった。


「キャプテン‥」
「どうした」
「猫ちゃんがすごく水を欲しがってるんだけど、あげても良いかなぁ?」


ベポは両手でカゴを抱えていた。
タオルとシーツが詰め込まれているカゴの中に黒い毛玉が見える。
放っておくのが恐くて連れて来てしまったらしい。


「おい、あんまり揺らすなよ。そこに置け」
「アイアイ!」


黒猫の入ったカゴをそっと机の上に置く。
黒猫はシーツの中でモゾモゾしていた。
手足の先は包帯でぐるぐる巻きにされている。
ローがシーツを摘まむと、ひょっこり黒猫が顔を出した。
黄色の目が真ん丸に見開かれる。
真っ黒な瞳孔がじわりと大きくなった。警戒しているようだ。
ローはそんな黒猫を見て軽く笑った。


「思ったより元気そうだな、飯と薬でもやるか」
「ご飯あげても良いの?」
「あぁ、まだ固形物は無理だろうから水と同じように流動食でも食わせれば良いだろ」


ローが答えるとベポは直ぐに「キャプテンっ俺にやらせて!」と声を上げた。
キョロキョロと目を動かす黒猫を軽く撫でながら、ローは苦笑した。


「好きにしろ。食わせる量は俺が決めるからな」
「うん!」


黒猫は早くもベポのお気に入りになったようだ。



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あきゅろす。
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