[携帯モード] [URL送信]
38曲目

ペット入店お断りのその店に、俺とベポは入ることができなかった。
アイスを食べたがっていたベポのために、ローがカウンターでバニラアイスを注文する。
シャチとペンギンは外に出ていた。


「検査は終わったのか?」
「うん、ちょっと可哀想だったけど、ヨルちゃん頑張ったよ」
「そうかーヨル頑張ったなー」


シャチがバスケットから俺を抱き上げる。
力なく垂れる尻尾を見て、ペンギンが「そっとしといてやれ」と静かに言った。


「ベポ、ほら食え」


戻ってきたローが、ベポの鼻先にアイスを突きつける。
特大サイズだ。
ローはベポと俺に特別甘い。
ベポは嬉しそうにそれを受け取った。
まろやかなミルクの匂いに、鼻先がひくひくする。


「わぁ!ありがとキャプテン〜」


良いなぁ。
美味しそうにアイスを頬張るベポを、シャチに抱かれたまま見上げる。
俺の視線に気づいたのはローだった。


「お前は本当に食い意地張ってんな」


そう言って、笑う。
ローは人差し指でベポのアイスを少しだけつついた。
そして、指先を俺の前に出す。


「お腹壊したりしない?」
「ちょっとくらいなら大丈夫だろ。今日はたくさん頑張ったしな」


甘い匂いに誘われて、俺はローの指先に舌を伸ばした。
ペロッと舐めると、ミルクの甘さが口の中に広がった。
冷たくて、甘くて、美味しい。


「ご褒美もらえて良かったなーヨル」
「本当に美味そうに食べるよな」


シャチとペンギンに言われ、俺はちらりとローを見上げた。


「おかわりは、ダメだからな」


おねだりは一回しか通用しないらしい。



*



小さな黒猫が白い砂浜を元気いっぱいに走る。
珊瑚礁で足を切るのではないかとベポは心配していたが、サンティランドの砂浜の砂は驚くほど細かかった。
これならばヨルの足が切れる心配はない。


「ヨルから目を離すなよ」
「アイアイキャプテン!」
「了解です!」


ローはベポとシャチに注意してから、海に背を向けた。
そして町の方へ歩き出す。
自分の買い物でも済ませてくるつもりなのだろう。
ペンギンが共について行こうとしたが、ローは片手を振ってそれを断った。
歩いて行くローの後ろ姿をヨルが見つめる。
しかし、今は海の方に興味があるらしく、黄色い瞳はすぐ海へと向けられた。


「お、海に入りてぇのか?」


シャチは言いながら靴を脱いでつなぎの裾を捲った。
そしてヨルの隣に立つ。
ヨルは打ち寄せる波におそるおそる近づいた。


「深いとこ行っちゃダメだからねー!」
「分かってる分かってる」
「シャチも一緒なら大丈夫だろ」


ペンギンは日陰を探して視線を巡らせた。
砂浜には海水浴客用にたくさんのパラソルが立ててある。
その1つに向かってペンギンが歩き出すと、暑さに負けたベポもついてきた。
シャチは笑いながらヨルと一緒に波を追いかけ、波に追われている。
砂に足を取られたヨルが、ころん、と転けた。
緩やかな波が、ヨルを濡らす。


「あーあ、濡れちまったなぁ」


濡れて一回りくらい小さくなったヨルをシャチが抱き上げる。
もぞもぞとシャチの腕の中でヨルが動いた。
シャチはヨルを海の中に下ろした。
するとヨルは器用に足を動かして泳ぎ始めた。
波に揺られながらも、シャチの足元を目指して泳ぐ。
シャチがしゃがもうとした時、少し強い波が来た。


「う、ぉっ!?」


ぱしゃん!と水飛沫が上がる。
濡れないようにつなぎを捲ったと言うのに、尻餅をついてしまったせいで無駄になった。


「大丈夫ー?」
「俺は平気だぜー?」
「そうじゃなくて、ヨルちゃんの方だよー!」


パラソルの下から走ってきたベポは、ヨルの姿を探した。
ヨルはシャチの膝に掴まっていた。
大きな波に驚いたのか、尻尾がピンと立っている。


「良かったー流されてなくて」
「んだよー俺の事もちょっとは心配しろよ」


「なぁ?」と言いながら、シャチはヨルの鼻先をつついた。

[*前へ][次へ#]

39/166ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!