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35曲目


海賊。それは海を荒らす奴らだ。
商船を襲い、人を殺し、金品を奪う。

自分に関しての記憶はないくせに、俺の頭の中にはこの知識があった。
だけど、ハートの海賊団の皆はこの情報にほとんど当てはまらない。
だからこそ俺は彼らの口から「かいぞく」と言う言葉を聞いても、それが「海賊」だと理解することが出来なかったのだ。

海賊船の人は殺したかもしれないが、フラワーパレスでの彼らは一切略奪を行わなかった。
花を配る少女たちに笑顔で礼を言っていたし、何より毎日俺のことを可愛がってくれている。
子猫を可愛がる男達が、極悪人だとは思えない。
実際皆良い奴らだ。
面白いし、優しいし、俺の知っている海賊には当てはまらない。
たとえ海賊だとしても俺は、この船の皆が大好きだ。
それだけは絶対に変わらない。





「今日は俺の部屋で寝るか?」


少し酔ったのだろう、ローがいつもより幾分か明るい声で言った。
そして俺の返事を待つことなく立ち上がる。
食堂は酔い潰れた男達で溢れ返っていた。
いつの間にこんなに飲んだのだろうか、と唖然としてしまう。
床に転がっているクルーの中にはシャチの姿もあった。
隣に倒れているクルーの腕にガジガジと噛みつきながら眠っている。
何かを食べる夢でも見ているのだろう。
ベポはと言うと、酒より料理をたくさん食べたいらしく、大きな肉を嬉しそうに頬張っていた。


「船長、もう寝るんですか?」


ペンギンは自分のペースで酒を飲み進めていた。
ローほど飲んでいないが、それでもかなりの量を飲んでいる。
ペンギンも相当酒に強いらしい。
帽子の下の顔色は、普段とほとんど変わりなかった。


「そろそろヨルを寝かせねーとな」


別に赤ん坊じゃないんだから、寝かしつけられなくても寝られる。
でも、ローがせっかく一緒に寝てくれると言うのを嫌がる理由はない。


「明日の昼には島に着くはずなんで、それまでには起きてくださいね」
「俺に指図すんな、ヨルの餌の時間には起きる」


何だか、ペンギンがお母さんみたいなことを言ってる。
ローは俺をユラユラと揺らした。
本当に赤ん坊を寝かしつけるように俺を寝かしつけるつもりらしい。
そんなに酔ってないように見えるが、実際かなり酔っているようだ。
何だかテンションがおかしい。
食堂を出て、ローは船長室に向かった。
部屋に入ってベッドに直行する。
ローは酒臭かった。かと言って、これだけ酒を飲んだ後にシャワーを浴びるのは危険そうだ。
せめて歯を磨いてきて欲しいが、ローはもう眠そうだった。
俺を抱えたまま、ぼすっとベッドに倒れ込む。


「おら、早く寝ろ」


ポンポンとお腹を軽く叩かれる。
そして柔らかい感触が気に入ったのか、お腹をふにふにとつついてきた。


「寝る子は育つんだぞ」

浅黒い大きな手のひらが、俺の顔を包む。
ローの匂いがした。


「もう、……怖いもんは何もねぇから」


親指で額を撫でられる。


「安心して眠れ」


ローは俺が怯えていることに気がついていた。
優しく何度も撫でられ、瞳に涙がたまっていく。


こんなにも、温かい。


俺はローの胸元にすり寄った。
気温は高いけれど、ピッタリと体をくっつける。
息を吸い込むと、肺の中がローの匂いでいっぱいになった。

俺はローが好きだ。
ローに命を救ってもらったその時から、俺の命はローのものになった。
俺が話せたら、俺が人間だったなら、この思いも全部ローに伝えることができるのに。

ポタリと瞳から落ちた熱い滴は、ローに気づかれることなくシーツに吸い込まれた。

今日沈んでいった命を蔑ろにしているわけではない。
人を殺しても、それでも、俺はローの事が好きで、大切なんだ。
たったの数分で皆殺しにされた命よりも、俺にとってはローの存在の方が大きい。
優しいローの匂いに包まれて、俺は目を閉じた。

あぁ、幸せだ。


ただ、そう思った。




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あきゅろす。
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