32曲目
「ヨルはどこだ」
ローの言葉にベポとペンギンは辺りを見回した。
先ほどクルーの誰かがヨルを部屋から放したと言っていた。
おそらくは船内を走り回っているのだろう。
手術室や調理場と言った衛生管理の厳しい場所には近づかないようにさせている。
しかし通路にヨルの姿はない。
「またそこら辺でシャチと遊んでいるんじゃないですか?」
「見つけて部屋に戻しておけ、見張りが海上に船を見つけた」
「海賊船なの?」
「十中八九な」
ロー達が話していると、シャチが通路の角から現れた。
キョロキョロと足下を見回している。
どうやらシャチもヨルを探しているようだ。
「シャチ、お前ヨルと遊んでたんじゃないのか?」
「あぁ、今遊んでるぜ?アイツ俺から隠れてるんだよ」
ペンギンに答えたシャチは「猫とかくれんぼとか笑えるよなぁ」と嬉しそうにしていた。
ちなみに、シャチにはまだローから頼まれた仕事が残っている。
「……よりによって、かくれんぼか」
「え、かくれんぼ駄目ですか?船長」
「敵船みたいなのが近くに来たんだよ!早くヨルちゃんを見つけなきゃっ」
「え、それマジかよっ!?」
ベポとシャチがあわあわと慌て始める。
「鈴もつけてないし、隠れられたらなかなか見つけるの難しいぞ…」
「とにかく探せ。ペンギン、お前は俺と来い」
ローは冷静な声で指示を出した。
*
耳をそば立てる。
誰にも気づかれてないみたいだ。
シャチには数回わざと見つかってやった。
そうしたら、シャチは俺が何をやりたがっているのか察してくれた。
毎日のように俺の遊び相手をしてくれているからだろうか。
俺は今かくれんぼをしていた。
体が小さいお陰で隠れる場所はいくらでもある。
俺は戸棚の下の段に隠れていた。
手前には本や雑貨が適当に積まれており、パッと見では俺の姿は見えない。
目の前を人が通る度に息を潜めるのが、何だか楽しかった。
あんまり見つけてくれなかったら鳴けば良い。
そうしたら絶対に誰かが見つけてくれる。
そう思って身を丸めていると、いつもはそんなに揺れない船がぐわりと揺れた。
続いてバタバタと忙しなく足音が響く。
いつもの様子とは明らかに違った。
まさか俺を探して皆が走り回っているのだろうか。
でも、まだシャチから逃げてからそこまで時間は経っていない。
シャチはベポほど心配性ではないし、きっと皆に探させたりはしないはずだ。
ではなぜ皆こんなに慌てているのだろうか。
「持ち場につけ!」
「武器は持ったか!?」
「宝物庫には見張りいるんだろうな!?」
ただ事ではない会話が聞こえる。
武器?一体どうして武器なんかが必要なんだ?
皆何かしら武器を持っているのは見たが、今までそれを使っているところを見たことはない。
ローの長い刀を思い出す。
俺を見捨てなかった優しいローが、あれで人を傷つけるのだろうか。
俺には到底想像できなかった。
ローは人の傷を癒してくれる人だ。少なくとも俺の知っているローは誰かを傷つけたりなんてしない。
でも、刀は持っていた。
持っていると言うことは、使うと言うことだ。
先ほどのクルー達の会話を聞くからに、今武器を使わなければならない状況に陥っているらしい。
俺は積み上げられた本の後ろから少しだけ顔を覗かせた。
皆足元も見ずに走っていく。
今俺が出て行けば間違いなく踏み潰されるだろう。
全身の毛がざわざわと逆立つ。
頭を引っ込めて、ぎゅっと体を丸めた。
何にも起こらなければ良い。
誰も怪我しなければ良い。
誰にも、いなくなって欲しくない。
小さく鳴いてみたが、誰にも気づかれなかった。
もうほとんどのクルーが持ち場とやらに行ってしまったらしい。
今、何が起きているのかは分からない。
でも、皆の足手まといにだけはなりたくなかった。
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