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31曲目
*



ローとベポの後に続いて船内を歩く。
足下にカーペットはないが、何とか滑らないように歩けていた。
ローは時折俺を振り返りながら進む。
ベポは時折どころではなく、ほぼ俺の方を見て歩いていた。
そんなに気になるなら俺の後ろから歩いてくれば良いんじゃないだろうか。

船内の散歩。

最近ようやく出来るようになったことだ。
後ろ足の筋肉が鍛えられたからか、ちょっとした段差ならジャンプ出来る。
通路の隅に置かれた箱に飛び乗ったりしていると、ベポが「危ないよヨルちゃん」と言って駆け寄ってきた。
これくらい、平気だ。
胸を張って大丈夫だとアピールする。
しかし心配性なベポには通用しなかった。
ひょいっと抱えられる。


「滑って落ちたりしたら怪我しちゃうでしょ」


めっ!と幼児を叱るような口調で怒られた。
実際俺は生後5、6ヶ月らしいが。


「ヨルが自力で登れる程度の高さなら、そんなに心配する必要はねぇよ」


ローがそう言って、ベポの腕の中から俺を取り上げた。
床にそっと下ろされる。
俺はくるくるとローの足の回りをまわった。


「あんま引っ付くと蹴るだろ、離れとけ」


笑ってそう言うローだが、ローが俺を蹴飛ばすことは絶対にない。
俺は「ろぅ!」と元気良く鳴いて答えた。


甲板に出ると、強い陽射しが眩しかった。
かなりの暑さだ。
ベポは特に辛いのではないだろうか。
見上げると、ベポの真っ黒な瞳と目が合った。


「ヨルちゃんも海見てみる?」


そう言って俺を抱える。
ベポの視線の高さまで持ち上げられ、俺は一面に広がるエメラルドの海を見た。
驚くほど透明な水が、深まり行くほど緑とも水色ともつかぬ色に染まる。
海底には珊瑚礁の群れが広がっていた。
そして大小様々な魚達が泳ぎ回っている。
無人島とも、フラワーパレスとも違う海の色だった。
一言で言うのであれば、夏一色。


「おいしそうなお魚だねぇ」
「泳がせんなよ、ヨルが魚に食われる」
「こんな深いとこで泳がせたりしないよー」


ローと軽くふざけながら、ベポがけらけらと笑う。
俺は綺麗な景色に釘付けだった。
ロー達と会う前の記憶などないに等しいが、こんな景色は初めて見た。


「あと3日かそこらで島につくはずだ」
「夏島かぁ、早くログがたまれば良いけど」


「俺、暑いの嫌いだ」とベポが呟く。
俺も暑いのは嫌いだ。
でもこの綺麗な海で泳げるなら、話は別だ。
魚だって追いかけてみたい。
大きい魚は確かに俺を一飲みに出来そうなやつだったが、小魚くらいなら俺にだって捕まえられるはずだ。
海に入るのが無理でも、小さい魚を捕まえて風呂に入れてはくれないだろうか。
俺は期待をこめてローを見た。
「ろぅ!」と鳴いて魚を捕りたい!と目で訴える。
しかし通じなかった。
まぁ、当たり前と言えば当たり前なのだが。

ローの手が俺に伸び、俺はベポの腕の中からローの腕の中へと移った。


「ログの長さは着くまで分からねぇな」
「冬島だったら良かったのになぁ」


俺の体重を計るかのように、ローが軽く腕を上下に動かす。
尻尾がぷらん、と揺れた。


「んなどうしようもない事言うな、……それにしても……やっぱり体重増えねぇな」
「ヨルちゃんは小さくて可愛いよ」
「いや、それはそうかもしんねぇが……とにかく島に着いたらまず病院だな」


一体どうすれば体重が増えるのか。
俺的には満腹になるまで餌を食べているつもりなのだが、他の猫はもっと食べるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、ローとベポは船内へと戻り始めた。
そろそろ海中に潜るらしい。
船内に入ると、ローは俺を床に下ろしてくれた。


*



ヨルが船内を走る。

ヨルの行動範囲が広がってからというもの、ハートの海賊団のクルー達は一様に足下に注意するようになった。
子猫を間違って蹴飛ばさないようにだ。
ヨルはよく部屋の外へ出たがった。
遊び相手はいるものの、ずっと同じ部屋の中にいるのは退屈らしい。
誰かにドアを開けてもらえるまで、ヨルは部屋のドアの前に座って「みゃーみゃー」と鳴いた。


「ヨル放したから足下気をつけろよー」
「おー」
「あっちの奴らにも言っとくか」


クルー達は船内を歩き回るヨルを叱ることなく好きにさせていた。
ヨルは餌の時間になったら元の部屋に自分で戻れる。
見た目こそまだ生後3、4ヶ月程度の子猫だが、ヨルは非常に賢かった。




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