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30曲目

*


てとてと、とヨルが部屋の中を走る。
木の床のままだと盛大に滑って転けたので、ヨルが歩き回るスペースには全面的にカーペットを敷いていた。
ヨルが追いかけているのはお気に入りのおもちゃ(シャチ作)だ。
長いロープを床に引き摺りながら、シャチが走る。
それをヨルが追う。
シャチはヨルが追い付ける程度の速さで部屋の中をぐるぐる回っていた。
仕事の合間は大抵シャチがこうしてヨルの遊び相手になってやっている。
シャチがいない間も他のクルー達がヨルの相手をしているので、ヨルが一人きりで放っておかれることはほぼなかった。

たしっ!とヨルがロープの結び目に飛び付く。
それを見てシャチは速度を緩めた。
爪の伸びてきたヨルは、割りと強く引っ張っても離れないのだ。
引っ付いていることに気づかず部屋を引きずり回してしまう時もあり、そんなところをローに見つかるとちょっと笑い事じゃ済まない。
そのためシャチは慎重に、かつダイナミックにヨルと遊んでいた。
遊び一つにもテクニックを要するのだ。


「おー!頑張るなぁヨルー」


シャチがロープを左右に揺らす。
ロープにしがみついたままのヨルはコロコロと転がった。
ふいに手が離れ、カーペットの上でお腹を向けたままヨルが伸びる。
疲れてしまったらしい。
シャチは寝転がっているヨルの隣に寝そべった。


「なんだー?もう終わりかー?」


言いながら、ヨルのまあるいお腹を指でつつく。
ヨルはゴロゴロ転がってシャチの指から逃げた。
しかしそれを追うシャチ。


「まだまだ遊び足りねーぞー」


ひょい、とヨルの両前足をつまむ。
そして、ふにふにふに、と肉球を揉んだ。
ヨルが嫌がって抵抗するが、シャチは肉球の柔らかな感触に幸せそうな顔をしていた。
その時、ドアが開かれペンギンが部屋に入ってきた。


「おい、シャチ。そろそろ仕事に―…何をやっているんだ?」
「んー?ヨルの肉球を楽しんでる」
「あぁ、気持ち良いもんな。じゃなくて、お前そろそろ仕事に戻れ」
「もうちょっと、ふにふにしてから戻るー」


仰向けに寝転んだヨルは、不満げに尻尾で床をぺしぺし叩く。
それでもふにふにを止めないシャチに、ヨルは柔く噛みついた。


「あたっ」
「触りすぎたんだろ」


歯形がつく程度の甘噛みだ。
シャチの手が肉球から離れる。
ヨルはしてやったりと鼻を鳴らした。


「噛むことないだろー」
「見せてみろ」


ペンギンがシャチの手を取る。
シャチの指には薄く歯形がついていた。


「なんだ、ちゃんと加減してるんだな」
「一回船長噛んだ時スゲー落ち込んでたしなぁ」
「そう言えば、猫の甘噛みは親愛の表現って本で読んだぞ」


ペンギンの言葉にシャチがぱぁぁっと顔を輝かせた。
そしてヨルを抱き上げて頬擦りする。


「お前は本当に可愛いーなーっ!」


うりうりと撫で回され、ヨルは嫌そうに鼻を短く鳴らした。
しかしシャチは気づかない。
そんなシャチとヨルを見て、ペンギンは呆れたようにため息をついた。


「まぁ、さっきのは単純に嫌だったから噛んだんだろうがな」
「そんなことない!」
「ヨル、そんなヤツ思いっきり引っ掻いても良いんだぞ」
「ひでぇ!?」


そう言い合っている間、ヨルは半ば諦めたようにシャチに抱きしめられていた。
そのかわり、ザリザリザリザリ、とシャチの顎を舐める。
シャチは「地味に痛てぇ」と言いつつも避けはしなかった。


「シャチお前、猫だと思われてるんじゃないか」
「えー?毛繕いしてくれてるってことかよ?」
「いつも遊んでやってるからかもな」


実はヨルなりの抵抗だったのだが、二人とも何だか和やかにとらえていた。
ペンギンがヨルの小さな鼻先をつつく。
プルプルと顔を振るヨルを見て、二人は笑った。



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あきゅろす。
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