29曲目
「今すぐ計らなきゃいけないの?ヨルちゃんが起きてからで良いじゃん」
体重計を持ってきたベポが不満そうに言う。
ヨルはまだローの膝の上でぴすぴす眠っていた。
それを起こしてまで体重を計る意味が分からないのだ。
「確かめたいだけだ。問題なければ、それで良い」
ローの顔は真剣だった。
ヨルをそっと抱き上げる。
抱き上げられたヨルは眠たそうに前足で顔を覆った。
小さな口を大きく開いてあくびをする。
そんなヨルを抱いたまま、ローは体重計に足を乗せた。
自分の体重を差し引いた数に、愕然とする。
「キャプテン、どうしたの?」
黙り込んだローを、ベポは不安げな顔で見つめた。
「……おかしい」
「え……?」
「コイツ……1gも増えてねぇんだよ。体重が」
ローの言葉に、今まで眠そうな目をしていたヨルの耳がピン!と立った。
黄色い瞳が丸くなる。
そしてオロオロとローとベポを見比べた。
「それ、いつから増えてないの…?」
「無人島でヨルを拾った日から、だ」
あの無人島から今に至るまで二月以上の月日が流れている。
誰が聞いてもおかしいと分かるくらい、異常な事だった。
*
俺はローに抱かれたまま、今の話について行こうと必死になっていた。
「拾った時、1.5sあった。野生だから少し軽かったのかもしれねぇが、少なくともあの時点でコイツは生後3、4ヶ月は経っていたはずだ」
俺、そんな赤ん坊だったのか?
まったく実感がない。
もっと長い年月を生きてきた気がするのだが…。
「餌の栄養バランスは完璧だった。2ヶ月経過してまったく体重が変わらないなんて異常だ」
「で、でもヨルちゃんは元気だよ?ちょっと成長が遅いだけなんじゃないの…?」
「この時期に成長しなかったらいつ成長するんだよ」
ローが額を押さえる。
俺、今ローに迷惑かけてる……?
でも、成長とかは俺にはどうすることも出来ない。
もっと食べて動けば良いんだろうか。
「とにかく、明日から毎朝体重を計れ。あと餌の量を増やせ」
そう言ってローは椅子に戻った。
当たり前のように再び膝の上に乗せられる。
でも今度はなかなか寝られそうになかった。
俺が他の猫とは違うってことは、俺自身が一番分かっている。
俺は変だ。
でも、どうすれば良い?
俺が落ち着きなく尻尾を揺らしていると、ローが頭を撫でてきた。
「別にヨルが悪い訳じゃない、心配すんな」
ローは俺の気持ちが読めるんだろうか。
俺はローの手のひらに、すりすりと頭をすり寄せた。
少しでも良い。安心したい。
それからローは、俺が眠るまで撫で続けてくれた。
翌朝から、早速俺は体重計に乗せられた。
針が動く。赤いそれは1.5kgのところでピタリと止まった。
間違いなく、1.5sだ。
それをペンギンが紙に書き込む。
「本当に1gも増えてないな…」
「あんだけ食って動いてんのになぁ。この体重計がおかしいとかじゃねぇのか?」
シャチは俺の乗った体重計をつついた。
その言葉にペンギンが首を振る。
「いや、さっき俺も計ったが体重計に狂いはなかった。ヨルの体重は1.5sで間違いない」
「そうかぁ……」
皆俺のことを心配している。
もう迷惑はかけないと誓ったのに、こんな形で迷惑をかけることになるなんて。
俺はへちゃりと両耳を下げた。
するとシャチに抱き上げられた。
「おい落ち込むなよヨルー可愛い子猫の期間が他の猫よりちっと長いだけだって」
「雄としては微妙かもしれんがな」
「まぁまぁ、今日から餌も増えるし良いこと尽くしだろ?」
シャチにそう言われると、何だか元気が出てきた。
美味しいものを沢山食べて、大きくなれば良いだけの話だ。
何にも悪いことなんかないじゃないか。
落ち込んでるのが変なくらいだ。
俺は感謝の気持ちをこめて、シャチの顔をいっぱい舐めてやった。
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