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2曲目

ふわふわと揺れるような感覚があった。
手足を動かそうとも考えられない。
体に力が入らなかった。
俺は一体どうなってしまったんだろう。

うっすらと目を開く。
誰かが俺を覗き込んでいた。
声は聞こえない。と言うより、何の音も聞こえなかった。
青灰色の瞳だけが異様にはっきり見えた。
コイツは一体誰なんだろう。

俺の意識はまたそこで途切れた。



*

ハートの海賊団がその島に着いたのは穏やかな昼頃の事だった。
島は山火事で燃え上がっており、人の気配はまったくなかった。
元々無人島だったようだ。
無数に島が存在する偉大なる航路では無人島はさして珍しいものでもない。
ただ何の物資も調達できずにログが溜まるまで足止めされてしまうのが難点だった。


ハートの海賊団の船長であるトラファルガー・ローは船員二人を引き連れて無人島に降り立った。
敵が潜んでいないか見回るためだ。
実際は船を降りる前から人の気配がないことは分かっていたが、久々の陸地は燃えていたとしても魅力的だった。
三人でぶらぶらと燃えていない海岸沿いを歩く。


「キャプテン、これ誰が火をつけたのかな?」
「大方、死んだ植物の自然発火だろ」


船員の一人、いや一頭である白熊のベポは不思議そうに首を傾げた。
もう一人のキャスケット帽をかぶった船員、シャチはローの言葉に「へー」と素直に感心している。


「海岸に船を乗り付けた跡もねぇからな」
「確かに」
「流石キャプテン〜」
「んな事はどうでも良いから、とりあえず何かないか探しとけ」


ローは適当に二人に指示して、切り立った崖の方へと歩いていった。
岩の壁に背を預けて座る。
背負っていた長い刀は傍らに置いた。
そして持ってきていた本を開く。
どうやら久々に波に揺られることのない読書を楽しむつもりらしい。
ベポとシャチは探索する気皆無な船長を見て、仕方ないなぁと言いつつ島の回りを歩き始めた。

二人が歩き始めて直ぐのことだった。
「うおっ!?」とローらしからぬ声が上がる。
振り返るとローの膝の上に何か黒いモノがあった。


「船長ー!どうかしたんスかー?」
「キャプテーン!」


ローに駆け寄る二人。ローは二人の呼び掛けに答えることなく膝の上に落ちてきた物体を見つめた。
ふわふわとしていたであろう黒い毛並は毛先が燃えてチリチリになっていた。
ぷっくりした肉球は酷い火傷で爛れている。
弱々しく呼吸を繰り返している小さな生き物。
それは黒い子猫だった。
ローは片手で子猫を抱えて立ち上がった。


「キャプテン、それ猫?」
「うわ、ひでぇ火傷…こりゃもう―…」
「ベポ水と薬と包帯の準備をしろ」


ローは早口でそれだけ言うと、出来るだけ子猫を揺らさないように歩き始めた。


「アイアイキャプテン!」


元気よく返事をしたベポはその巨体からは想像できないくらいの速さで船へと駆けて行った。


「船長、そいつはちょっと厳しいんじゃ…」
「酷いのは足だけだ。気管まではやられてねぇ」
「もしかして飼う気ですか?」


シャチの言葉にローは特に表情を変えずに返した。


「ログが溜まるまでだ」




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あきゅろす。
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