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27曲目

シャチが両手に構えたもの。
それは何個か結び目を作ったロープだった。
視線の先には体勢を低く構えたヨルがいる。


「行くぞーヨル」


そう言って、ぶらん、とヨルの目の前にロープをたらす。
ヨルは短い足を出来るだけ速く前に出した。
タシタシっ!とロープを叩く。
時折爪が引っかかった。
シャチはヨルがロープを追える程度の速さでロープを動かす。
よたよたしつつもヨルは一生懸命ロープを追った。
結び目を狙って前足を繰り出す。
捕まえると両前足で結び目を押さえつけ、小さな口であうあうと噛みついた。
興奮しているのか、ヨルの尻尾は毛が逆立って通常の2倍くらい大きくなっていた。



これも訓練の一つだ。
考案したのはシャチだが、遊びで体を動かさせるのは確かに効率が良い。
ローも認め、シャチがこの訓練係もとい遊び相手として任命された。
そうなると他のクルー達もヨルに構いたくなるわけで、最近のハートの海賊団の中では猫のおもちゃ作りがブームになっていた。
物を作るのが得意なクルーは売り物にしても遜色ないほどのおもちゃを作り上げていたが、今のところのヨルのお気に入りはシャチが作ったロープのおもちゃだった。
細工に凝ったものよりシンプルなものの方が遊びやすいらしい。



シャチとヨルが遊んでいるのを、ベポは羨ましそうに眺めた。


「ねぇ、シャチ。俺にもやらせて?」
「おう、良いぜ?」


ひょい、とシャチがベポにロープ投げる。
それにつられてヨルもよちよちとベポに駆け寄った。
ベポはシャチがやっていたのと同じようにロープを揺らした。
しかし床からの距離が高すぎて、ヨルがジャンプしてもロープの先に手が届かない状況だった。


「もっと手を下におろして、床にロープをつけてやれ」
「あっうん、届かなかったねヨルちゃん」


シャチにアドバイスされ、ベポはロープを床につけた。
その瞬間にヨルはロープに飛びかかった。
野生の本能というやつが刺激されているのだろうか。
しかし、ロープに噛みつく姿も二人にとっては愛らしく見える。
ベポはニコニコ笑って、ロープを左右に動かした。


「ほら、ほらヨルちゃん頑張って」


そうして、ヨルが飽きてへたり込むまで遊んだ。





*





何だか最近はちょっと暑い。
気温の高い海域とやらに入ったらしい。
海上に上がって甲板に出た時の陽射しの強さと言ったらなかった。
しばらくは甲板に出たくないなとすら思ったほどだ。
ベポのお腹の上で昼寝をするのも厳しいくらいの気温だった。
ベポには悪いけれど、この海域とやらを抜けるまでは一人で昼寝をさせてもらおうと思った。


「泳ぐか、ヨル」


そんな中俺の楽しみになっているのが、これだ。
俺はローに元気よく鳴いて答えた。
そしてローの後をついて行く。
もう走れるくらいに回復した俺は、自分のことはほとんど自分で出来るようになった。
トイレだって作ってもらった場所にきちんとしている。
まだ危ないから船内全部を自由に行き来できるようにはなっていないが、俺の生活しているスペースは自由に歩き回れるようになった。

ローに続いて風呂場に入る。
すでに水をためてあるようで、ローが俺を抱き上げた。
流石にバスタブの縁までジャンプして上がることは出来ない。
体が大きくなれば出来るようになるだろう。

水はバスタブの半分以上入れられていた。
その中に入れられ、水の冷たさに俺は目を細めた。
気持ち良い。
前足と後ろ足を動かして、水をかく。
スイスイと進んで見せると、ローが笑った。


「本当に泳ぐのが上手いな、ヨル」


ローに褒められて悪い気なんてしない。
俺はローを見上げて鳴いた。


「俺が海に落ちたら、ヨルが助けてくれよ」


ローが猫相手にこんな冗談を言うなんて思わなかった。
俺は一瞬目を丸くしてしまったが、直ぐにおかしくなって笑ってしまった。
「ろぅ、ろぅ」と鳴く俺を見て、ローも笑った。




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