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18曲目

*

俺は真っ赤な花に囲まれていた。
嘘を吐いたことを責められているような気持ちになった。
血のような赤が、恐い。
俺はバスケットから出して欲しくて顔を上げた。


「確か、嘘を吐くと赤くなるって言ってたよな。その花」


シャチの言葉に、体がギシリと固まる。
俺は嘘つきだ。
本当はきっと歩ける。
ただ歩けないフリをしているだけだ。

でも、それにはちゃんと理由がある。


「それって動物にも有効なのか?時間が経ったから花弁の色が変わったとかじゃないのか?」
「でもさっきの女のコはそー言ってただろー?」


別に皆を騙そうと思っている訳じゃない。
迷惑をかけようと思っている訳じゃない。
俺は、ただ。

ただ、皆と一緒にいたいだけなんだ。


「もー何だって良いじゃん、チビちゃんも疲れてるみたいだし早く行こうよ」


話せないのが歯がゆくて仕方がなかった。
一緒にいたいと言いたい。

前方を歩くローは、チラリとも俺を振り返らなかった。
でもきっとこの会話は聞こえているだろう。
俺のことを嫌いになってしまっただろうか。
そう思うとローの顔を見るのが怖くなった。

視界が赤い花で埋め尽くされる。



「何かチビ震えてねーか?」
「早く戻ろう。今日は連れ回しすぎたのかもしれない」
「チビちゃん大丈夫?」


俺は何も見たくなくなって、ぎゅっと両目を閉じた。




*


「キャプテン、何でそんなに無理矢理歩かせようとするの?」


船に戻ってから、ローは直ぐに黒猫を床に下ろした。
そして再び黒猫に「歩け」と言ったのだ。
バスケットの中から取り出された黒猫は心なしかぐったりしていた。
眠ってはいないだろうが、両目を閉じている。
ローの声に反応して、少しだけ耳が動くくらいで、起き上がる気配はない。


「…今は仮病でも、いずれ本物になる」


ローが呟く。
ベポは理解できないようで、腕を組んで不満そうにしていた。
可愛い黒猫をいじめているようにしか見えないらしい。


「だから、チビちゃんが歩きたくなった時に歩けば良いんじゃないの?」
「このままじゃ本当に歩けなくなるって言ってるんだよ」


ローは真剣な声でそう言った。
黒猫が目を丸くしてローを見上げる。


「使わなかったら筋肉は衰える一方だ。本当に歩けなくなる前に、歩かせなきゃならねぇ」


重たい沈黙が流れる。
ローの話を聞いていたクルー達は皆不安げに顔を見合わせた。
黒猫はキョロキョロと大きな瞳だけを動かして周りを見た。
自分に視線が集まっているのを体で感じ取っているようだ。
居心地悪そうに尻尾と耳を下げる。


「…でも…」


沈黙を破ったのはベポだった。


「チビちゃんが歩けるようになったら、船から下ろしちゃうんでしょ?」


その問いに、ローは答えなかった。




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