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17曲目

*

非常にまずい。
俺はローを見上げた。
真っ直ぐな視線が俺に刺さる。
出来るだけぐったりした感じで診察台にへたり込むが、この仮病が通じるかどうか怪しいところだ。


「この猫ちゃんは相当の寂しがり屋なのかもしれませんね」


俺が全力で仮病の演技をしていると、獣医は大きな手のひらを俺の頭に乗せた。
ぽふぽふと撫でられる。


「何で寂しがり屋って分かるの?」


ベポが獣医に訊ねると、獣医は笑って答えた。


「動物も仮病を使うんですよ。特にかまって欲しい時に」


ローがじっと俺を見下ろした。
視線が痛い。
ローは無言のまま俺を抱き上げた。
ぷらん、と尻尾が垂れ下がる。


「…お前、歩けるのか?」


俺は、鳴き声をあげることすら出来なかった。




*


噴水の前に立っていたベポとローは、遠目から見ても目立っていた。
あれから直ぐに薬を貰って病院をあとにしたのだ。

ローはオロオロとするベポに構うことなく、噴水の前にしゃがんだ。
視線の先には小さな黒猫がいる。
黒猫は黄色い目を若干潤ませて、ローを見上げていた。


「ほら、歩いてみろ」


ローが黒猫に言う。
静かな声だったが、棘はなかった。
別段機嫌が悪い訳ではないらしい。
黒猫はへちゃり、と地面に寝そべった。歩く気は欠片も感じられない。
しかしローにわざと反抗しているという雰囲気はなかった。
ただ、黒猫は悲しそうな声でみぃみぃと鳴いた。


「ねぇ、キャプテン。可哀想だからやめてあげてよ」


見かねたベポが止めに入った時、買い出しを済ませたペンギンとシャチがやって来た。


「何やってんスか船長ー」
「物凄く目立ってますよ」


大きな買い物袋を両手に、ペンギンがため息をつく。
黒猫は二人を見上げて精一杯みぃみぃと鳴く。
助けを求めているようだ。


「コイツは歩けるはずなんだ」


ローは二人の方を見ることなく言った。
伸ばされた手が黒猫の頭を撫でる。
黒猫はぺったりと両耳を下げた。


「病院で診てもらったんですか?」
「あぁ」


シャチに答えつつも、ローは黒猫を真っ直ぐに見つめていた。
しかし黒猫が立ち上がる気配はない。
ベポは我慢できなくなったのか、ひょいと黒猫を抱え上げた。


「ベポ」
「だって、チビちゃんが嫌がってるのに無理にやらせることないよ」


ローがベポに厳しい目を向ける。
しかしベポも譲る気はないようだった。


「何にせよここじゃあ目立ちます。船に戻りましょう」


黒猫をはさんで睨み合うローとベポをペンギンが止める。
ペンギンの言う通り、ロー達はかなり目立っていた。
道行く人が足を止めて様子を窺うくらいに。

ペンギンの提案に、ローは黙って船へと足を向けた。
そんなローを見て、ベポがほっと息をつく。
抱き上げていた黒猫の頭を撫で、「嫌だったねぇ」と優しい声で話しかけた。


「ほら、ベポも行くぞ。お前が一番目立ってんだからなー」


シャチが軽くベポの背を押す。
ベポはいそいそとバスケットの中に黒猫を入れた。
花で満たされたバスケットの中で黒猫が小さくくしゃみをする。
シャチはバスケットを覗きこんで首を傾げた。





「あれ?この花、こんなに赤かったか?」









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