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12曲目

ベポはローを連れて黒猫のいる部屋に戻った。
しかし、黒猫はもう立とうとしなかった。
さっきまであんなに頑張っていたのに、だ。


「シャチ、何かあったの?」
「いや、何か急にやる気なくなっちまったみたいで…」


ローはへたり込んでいる黒猫を黙って見ていた。
黒猫はローの視線から逃れるようにタオルの中に潜り込む。


「でもねキャプテン、さっき本当に歩けたんだよ!」


「スゴいでしょ?」とベポが得意気に言う。
まるで自分のことのように胸を張っていた。
ローは小さく笑い、「そうだな」と答えた。


「たぶんさっきので疲れちまったんだろうなぁ」


シャチは黒猫にタオルをきちんとかけてやった。
黒猫は黄色い目を完全に閉じて、寝る体勢に入っていた。
そんな黒猫にローが近づく。
黒猫は耳をピクピクと動かした。
ローが近づいてきたことには気づいているらしい。
しかし目を開きはしない。
そんな黒猫の拒絶にローは僅かに眉を寄せた。
黒猫に触れることなく、黒猫から離れる。


「飯の時間になったら起こしてやれ」


それだけ言って、ローは部屋から出て行った。










操縦室から真剣な話し声がする。
ローはペンギンと航海士と共に航路を確認していた。


「この調子で行けばあと3日ほどで次の島に着けます」
「春島か?」
「えぇ、なかなかに大きな島のようです」


前の無人島では何の物資も調達できないまま2週間も無駄にした。
次の島では是が非でも物資を調達しなければならない。


「敵襲に遭いやすいのは島の近辺だからな、海上に気を配るよう伝えておけ」


ローの言葉にペンギンが頷く。
もうすぐ島に到着すると言うことについては今夜にでもクルー達に伝えられるだろう。

ローは他のクルーにもいくつか指示を出し、操縦室を後にした。

船の近くに巨大な海王類も見当たらないし、海上に船の影もない。
このまま順調に行けば何とも戦うことなく島に到着できるだろう。

そんなことを考えながら、ローは船長室に戻った。
机の上に積み上げられているのは動物の治療に関する本。
その周りには手書きのメモやカルテが散乱していた。
全て黒猫の為にローが書いたものだ。
ローはそれを拾い集めながら、先程の黒猫の様子を思い出した。


「…めんどくせぇな」


ぼそりと呟き、ローは机についた。
本とペンを手に取る。



その日、ローの部屋から明かりが消えることはなかった。



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あきゅろす。
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