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11曲目


「よし!もうちょっとだ!!」
「頑張れ!頑張れ!」


俺は今、全身の力を使って踏ん張っていた。
四本の足がプルプルと震える。
包帯はまだ着けたままだが、自力で歩く練習をしていた。
傷自体はローの薬のお陰で治りつつある。
痒みはあったが、これ以上皆に心配をかけるわけにはいかない。
だから全力で我慢した。


「ほら、もう少しだぞチビ!」
「チビちゃん頑張れ!」


俺を現在進行形で応援してくれているのは、シャチとベポの二人だ。
最初の方はローとペンギンもいたのだが、仕事があるらしくどこかへ行ってしまった。
この二人は行かなくて良いのだろうか。
ベポとシャチは俺の世話をする頻度が非常に高い。
暇なのだろうか。
俺に構ってくれるのは正直嬉しいから良いのだが。


前足に力を込める。
尻がプルプルした。
尻尾も使って体を持ち上げるようイメージする。
俺は歩ける。
歩ける歩ける歩ける!



「おぉぉぉっ!!歩いた!」
「やったぁ!キャプテン呼ばなきゃ!」


どうにか歩けた。
しかし直ぐに倒れそうだ。
足の震えが尋常じゃない。
ベポが勢い良く立ち上がり、机がガタンと揺れる。
当然机の上に置かれていたカゴも揺れ、その中にいた俺は呆気なく倒れた。
タオルの中にコロンと転がる。


「うぉい!ベポ揺らすなよっチビ転けたぞ」
「あぁ!ごめんねチビちゃん」


いや、ベポが揺らさなくても直ぐ倒れただろう。
俺は気にしなくて良い、とベポに向かって鳴いた。


「うん、もう一回頑張ってみる?キャプテン呼んでくるからさ」


大きな手で撫でられ、俺はコロコロと転がった。
ベポは笑って俺の腹を撫でると、部屋から出て行った。

よし、もう一度頑張ろう。
早く自由に歩けるようになりたい。
そうしたら自分のことを自分で出来るようになるだろう。
食事にしろトイレにしろ、俺は皆に迷惑ばかりかけている。
男なら男らしく自立するべきだ。

俺はうつ伏せになって手足に力を込めた。
そんな俺を見ながら、シャチが「あ、でも…」と小さく声をもらした。

続けられた言葉に、俺の頭の中は一瞬で真っ白になった。


「船長…歩けるようになるまでって言ってたな…」


歩けるようになるまで。
それはベポが俺に名前をつけようと言い出した時に、ローが言ったことだ。
その時はあまり深く考えないようにしていた。
でも、つまりは…歩けるようになったら俺はこの船にいられない、という意味であって…。
だからローは俺に名前をくれなくて。

一つを考え出すと、次から次へと最悪の事態へ考えが転がり落ちていく。
歩けるようになったくらいで俺は一人で生きていけるのか?
未だに食事も水も人からもらっている俺が、一人で食料を確保できるのか。
無理だ。そんなの絶対に出来ない。

それに、何よりも。

この船を離れるなんて、嫌だ。
捨てられるなんて嫌だ。
皆と一緒にいたい。
ローにまた撫でて欲しい。


俺はここにいちゃダメなのか…?



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あきゅろす。
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