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10曲目


「キャプテン、何かチビちゃん元気ないみたい。診てあげて」


ベポがそう言ってローの所に訪れたのは昼のことだった。
ローはペンギンとこれからの航路について話し合っていたが、今のところ海流も安定していると言うことで黒猫の元へ向かうことにした。



黒猫がいる部屋にはシャチや他のクルー達がいた。
皆それぞれ手に何かオモチャのような物を持っている。


「ほーらチビ、新作のオモチャだぞー?」


シャチがそう言いながら、ただのロープを結んだだけのものをカゴの中で寝転がっている黒猫の前で揺らした。
しかし黒猫は無反応だ。
チラ、とオモチャを視線で追いはするが、手を伸ばそうとはしない。
フーとため息のような吐息をもらし、へちゃりとタオルの中に沈んだ。


「あーこれもダメかぁ、自信作だったんだけどなー」
「俺のやつはどうだ?ネズミっぽく作ってみたぞ」
「はぁ?その毛玉がネズミ!?」


黒猫の周りで騒ぐクルー達に、ローはやれやれとため息をついた。


「何してんだお前ら」
「あ、船長!チビを診てやってくださいよー何か元気なくて」


ローの存在にやっと気づいたシャチがベポと同じようなことを言う。
ローはそれに「分かったから退け」と返した。

黒猫はローを見るなり、三角の耳をへちょ、と下げた。
タオルの中に潜り込もうとモゾモゾ動く。


「何逃げてんだ」


ローはそんな黒猫をヒョイっと持ち上げた。
腹を触り内臓の調子を確かめる。
続いて黒猫の口に触れた。
なぜか黒猫はローの指先が口に当たっただけで、ビクリと体を硬直させた。
尻尾が垂れ下がっている。
確かに元気がない。


「おら、口の中見せてみろ」


ローが黒猫の鼻をつつくと、黒猫は大人しく口を開けた。
歯も舌も綺麗だ。
体自体は健康であること間違いなしなのだが、どうも黒猫はしょんぼりしていた。


「体に異状はないぞ?」


流石のローも首を傾げる。
そんな中、ベポが何か閃いたように顔を上げた。


「何か…俺分かったかも」
「何?」


ベポはローの左手を指差した。
ローの左手には包帯が巻かれている。
昨日黒猫に噛まれた傷だ。


「チビちゃん、キャプテンを噛んじゃったことで落ち込んでるみたい」


黒猫の両耳がピンと立つ。
どうやら図星らしい。
ローは人差し指で黒猫の顎をちょい、と持ち上げた。
黄色の瞳がオロオロとさ迷う。
そして、小さな舌でそっとローの手を包帯の上から舐めた。


「コイツ…!なんて健気なんだっ!」
「船長!許してやってくださいよ!」


黒猫の行動に胸を打たれたクルー達がローに懇願する。


「うるせぇ、許すも何も元々怒ってねぇよ」


ローはため息混じりにそう言って、黒猫の頭を撫でた。
黒猫の目が丸くなる。
垂れ下がっていた尻尾がゆらりと揺れた。




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