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9曲目

痒い。

痒い痒い痒い痒いっ!!!!



「あー!また包帯取ろうとしてる!駄目だよっ」


ガシガシと足に巻かれた包帯に噛みついていると、ベポに見つかった。
ヒョイっと抱えられる。
ベポは真っ黒な目で俺をジッと見つめた。


「痒いかもしれないけど、それは治っていってる証拠なんだよ?かじってたら治るものも治らないでしょ?」


まさか白熊から本気で説教されるとは。
昨日も一昨日も軽く流してくれたのに。
ローに何か言われたのかもしれないな。

確かにベポの言う通りだと思う。
しかし、どうにもこうにも痒いのだ。
こればかりはどうしようもない。
肉球に出来た瘡蓋を今すぐ剥ぎたい。
痒いよりも痛い方がまだマシだ。


「もうかじっちゃ駄目だからね!」


ベポは最後に釘を刺すと、俺をカゴに降ろした。
しばらく俺の様子を眺めていたが、何か仕事があったらしく部屋を出て行った。
周りには何人かいたが、皆何かしら忙しそうだ。
通り過ぎる時に頭を撫でてくれる程度で、俺の相手をしてくれる人はいない。

つまらない。
つまらないし、痒い。
そうだ、今なら誰も見てない。

俺はガシガシと前足の包帯に歯を立てた。
包帯の結び目が段々と緩む。
ぱらり、と一巻き取れた。
そのままぱらり、ぱらり、と包帯をほどく。
やっと出てきた足は、ひび割れた瘡蓋で覆われていて酷い有り様だった。
汁とか膿が出ていた時と比べれば格段に良くなっているが、それでも酷い。
気持ち悪かった。
これを全部剥がせたらどれだけスカッとするだろう。
俺は瘡蓋に歯を立てようと口を開いた。
かぷり、と噛みつく。



しかし、俺が噛みついたのは瘡蓋ではなかった。



「何してやがる」


ローの低い声。
俺の口の中にあるのは、ローの左手だった。
軽く刺さった牙に、血の気が引くのを感じた。
そっと口を開く。
ローは微動だにしなかった。
体を後ろに引くとローの手の甲に、プックリと血の玉が出来るのが見えた。

やってしまった。



「お前、瘡蓋取る気だっただろ」


ローに噛みついてしまった。


「せっかく綺麗に治ってきてんだぞ」


ローを傷つけてしまった。

俺はどうすれば良いか分からず、ただローを見上げた。
青灰色の目と視線が合う。
ローはピタリと話すのを止めた。


「…何泣いてんだ。目にゴミでも入ったか?」


俺は自分でも気づかぬうちにポロポロと涙を溢していた。
ごめんなさい、と謝る。
口から出るのは、みぃみぃと言う鳴き声だったがローには伝わるような気がした。

ふわりと抱き上げられる。
ローの顔が目の前にあった。


「ゴミは…入ってないな」


みぃ、と鳴く。
ローが僅かに目を細めた。
なぜか笑っているようだった。


「おかしな奴」


やんわりと頭を撫でられる。
結局、噛みついたことについては一言も怒られなかった。





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