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悪魔の実

まだ朝御飯まで時間があるからこれだけでも、とサンジさんは俺にスープをくれた。
カップに注がれた熱々のスープを持って席につく。
熱いのは少し苦手なので、ふぅふぅと何度も息を吹きかけた。
まだ冷めてないけれど、美味しそうなスープに喉がなる。
そっと口をカップにつけた。
が、やはり熱くて「あっつ…」と小さく声を洩らしてしまった。


「ユエちゃんかわっ…!」
「え?」
「な、んでもない」


サンジさんの声に顔を上げる。
すると、サンジさんはなぜか口元を押さえて俯いていた。
不思議な人だなー。

俺は特に気にせず、熱いスープを慎重に飲んだ。








朝御飯は凄まじかった。
何と言うか、うるささが。


俺はルフィさんとチョッパー君に挟まれて座っていた。
人の事は言えないのだが、ルフィさんの食べる量は凄い。
しかもルフィさんは驚くほどお腹が膨れるのだ。
昨日も思わず心配してしまうくらいお腹が膨れていたのだが、「腹が膨らまないオメーのがスゲェぞ!」と返されてしまった。
ルフィさんの胃は、と言うか体は、どうなっているのだろう。

食べながら、俺は回りを観察した。
女性二人はお淑やかに、朝の光に似つかわしく麗しい食べ方だった。
つまりは、上品。

それに対する男性陣の食いっぷりは凄い。
とにかく凄い。それに尽きる。
ルフィさんは言わずもがな、食べる量が半端ない。
時折サンジさんが怒鳴りつけている。
確かに、もう少し味わって欲しいものだ。
アニキは朝からコーラをがぶ飲みしていた。
ブルックさんは…食べている。食べる意味が果たしてあるのか…と失礼ながら思ってしまった。
チョッパー君は隣のウソップさんの話に気を取られている間に、お皿のお肉を一切れ奪われていた。後で俺のをあげよう。
ゾロさんは黙々と食べていた。
サンジさんの事をクソコックと呼ぶ割りに料理はきちんと残さず綺麗に食べている。
言うほど仲が悪いわけではないらしい。
そして、食べる姿も男らしい。

ゾロさんの男らしい姿に見とれていると、チョンチョンと肩をつつかれた。
ん?と振り返るが、誰もいない。
全員席に着いているのだから当たり前だ。
気のせいかと思って前を向くと、正面に座っているロビンさんにニッコリと微笑まれた。


「誰に見惚れてるのかしら?」


耳元で囁かれ、俺はギョッとして席を立った。
だって、ロビンさんは口を動かしてすらいなかったのだ。
それに俺の真正面に座っている。


「ん?どーしたユエ?」


ルフィさんがモシャモシャと野菜を頬張りながら俺を見上げる。
全員の視線が俺に集まっていた。
ロビンさんは相変わらず笑っている。


「あ、いえ…」


やっぱり、俺の気のせいか。
「何でもないです」と言って座ろうとした時、ぐいっと手を引っ張られた。
引っ張られた先を見て、俺は思わず息を止めた。



て、テーブルから、手が生えてるっ!?



しなやかな腕と、綺麗な爪が揺れる。
美しい造形の手が、俺の手首をしっかりと掴んでいた。
驚きすぎて声も出せずにいると、ゾロさんが「おい、趣味わりぃぞ」と呟いた。
スッと手が離れ、どういう仕組みか…消えた。


「ふふふ、ごめんなさいね。ユエがあんまりに可愛かったから。これには驚くのね」


状況に頭がついて行かない。
何でロビンさんは笑ってるんだ?
今の手は何?
耳元で囁いたのは?
趣味悪いってどういう事?

俺がフラフラしていると、ルフィさんが腰を支えてくれた。


「大丈夫かー?いきなりどうしたんだユエ?」


どうしたも何も、なぜ皆さん落ち着いていらっしゃるのか!
何だか頭が痛くなってきた。
ズキズキする頭を押さえていると「座った方が良いぞユエ」とチョッパー君に促された。
席について、水を飲む。
よし、ちょっとは落ち着いた。
俺は笑顔を作って顔を上げた。


「今の、手品ですよね?」
「いいえ、悪魔の実の能力よ」


ナミさんの言葉に、俺はまた頭を抱えた。
意味が分からなすぎてついて行けない。


悪魔の実って、何?



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