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 冬が無彩色の世界ならば、春は光の世界だ。金色の光が降り注ぎ、すべてが柔らかく鮮やかに輝き始める。それは人間が生命の息吹を感じ取っているからだ。
 けれど、全て俺には関係のないことだった。春の景色を見ても何も心揺り動かされない。むしろ、あの冬の寒々とした灰色の空に、俺は何か燻った想いを抱いていた。

 俺は何の感慨もなく、目の前に広がる光景を眺める。ベージュのブレザーに深緑のネクタイをきっちりと締め、軍隊の列のように整然と並ぶ全校生徒。これから3年間お世話になる教職員達。誇らしげに式を見守る保護者の群。
 見慣れた景色だ。だから余計に目立っていたのかもしれない。黒々とした髪の毛を持つ生徒の中で、一つ異様な金色がふわりと揺れていた。式場前方の新入生の列だ。漠然と、あれは同じクラスの人間かと考えた。

『――新入生代表、蓮見京一郎』

 マイクから遠ざかり一礼して壇を下りる。拍手に混ざり場違いな歓声も聞こえてきたが、俺の頭はどの音も拾おうとしなかった。

「今日から1年間、A組のみんなと一緒に頑張っていきたいと思います」

 新しいクラス担任は真面目で温和そうな人間だった。彼は名簿に視線をやると、クラスの端から端までを見回した。

「今年は外部生も例年より多く入学しました。外から来た新しい風に触れて、皆さんも刺激を受けるでしょう。そして、彼らが何か困るようなことがあれば、友人として手助けをしてあげて下さい」

 それは上辺だけの言葉に聞こえた。きっと外部生の何人かは、学年が上がるのを待たずしてこの学校を去るだろう。排他的な空気と異様な習慣。ここに順応するのはなかなか難しいのだ。
 最初のホームルームは簡潔に終わった。すぐに教室のそこかしこにグループが形成されていく。俺の席は廊下から2列目の中ほどにあったのだが、その近くでも3、4人の生徒が話に花を咲かせていた。けれど俺はどこのグループにも近寄ろうとしなかった。面倒だったのだ。ほとんどが中等部時代からの持ち上がり組であるため、今更挨拶を交わしたり、愛想を振りまく必要もない。そして、そんな俺を気遣うように、クラスメートは一定の距離を保ち中に足を踏み入れようとしない。……そのはずだった。

「ねぇ、君って新入生代表の子でしょ?」

 背に軽い声が掛かる。俺は後ろを振り返って、僅かに目を見開いた。
 飛び込んできた輝く金色。それとは対照的な銀の飾り、緩められたネクタイ。視線を走らせて、ああ、ここにはいない人種であると理解した。
 けれど、俺が一番驚いたのは相手の服装にではない。アーモンド形の焦げ茶の瞳、すっと筋の通った鼻梁、柔らかく弧を描く唇。この学校においては、さぞ持て囃されるであろう美しく整った容姿。どこか、見覚えのある顔だった。

 ――えへへ、ありがと……

 頭の中で、誰かが笑っていた。



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あきゅろす。
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