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 ああもう、腰が痛い……。本当にあの人しつこいんだから、1回すんのにどんだけ時間かけんだよ、遅刻しちゃうだろ、も〜〜!
 俺は心なしか肩を落として1人廊下を歩いていた。何これ、バイトに支障きたしたらどうしてくれるんだ、あの腹黒めぇぇえ!

 心中で盛大に悪態を吐きながら、のそりのそりと校舎を出る。そして、思わずおおお!と叫んでしまった。

「蓮見〜〜!」

 校庭で部活中の蓮見に出くわしたのだ。走り込みかな? ん〜運動着姿の蓮見も格好良いよう。毎日さっさと帰宅をしてしまう俺にとって、彼の部活に励む姿はとっても貴重。神様ありがとう! あれ、でもこれって二ノ宮センパイのお陰かな? あー……まぁ良いや、今は蓮見の美しい汗を鑑賞しなければ。

 満面の笑みを浮かべて手を振る俺に、蓮見は軽い一瞥をくれただけだった。
 その代わり、俺のように蓮見に声援を送っている可愛い男の子達の群には笑顔を振りまいている。うちの学校は男子校だから、蓮見のように顔の良い奴にはファンクラブみたいなものができる。あ、因みに俺もそんなものを結成されそうになったが、丁重にお断りした。だって管理できないし、もし仲良くなって、昔の自分のことがバレたりしたら嫌じゃない……。

「蓮見くん〜〜!」

 本当に黄色い声援ってやつですね。分かるよ、うん。蓮見格好いいもんね。猫被っている時の小悪魔的な微笑なんか、こう、下半身に……いやん、なんでもないよ。
 常日頃の自分に対するのは蓮見の素で、愛想の欠片も感じられない。だからあのキラキラした笑顔が、自分に向けられることはないのだ。それはちょっと悲しい。それでも俺は満足し、腰の痛みも忘れて軽い足取りでバイトに向かった。

 放課後から明け方までコンビニのバイト。早朝は新聞配達。それが俺の日課だ。外見がゆる〜い俺を雇ってくれるとこなんて本当に限られるものだから、俺は働いている間本当に一生懸命。稼がないと生活が成り立たない。保護者からの仕送りには一切手を付けられないんだ、俺は。
 俺の通う高校は、県下でも名高い進学校。プラス、超お金持ち校。全寮制の男子校という、よく聞く設定みたいなものがある。でも、入寮なんてできないよ。あそこ賃貸が有り得ないくらい高いんだ。その分施設は充実しているんだろうけれど、学費でさえ奨学金で払っている俺にとっては、冗談のような世界だ。
 奨学金も成績を上位に保たなければ貰うことはできない。だから俺はバイトと学校の合間に猛勉強する。元々頭のできはそんなに悪くないから、これでもなんとかなるもんだ。
 でもその結果、寝る間を惜しみ働く俺は、昼夜逆転気味の生活。学校にはいつも重役出勤だ。普通の公立高校に行けば、こんな苦労しなくても良いのかもしれないけれど、仕方がないんだ。俺は、蓮見のいる学校に通いたいからさ。



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あきゅろす。
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