愛と苦悩N
放課後、俺はガチガチに固まった状態で、蓮見の寮部屋の前に立っていた。
い、いよいよだ。蓮見のお部屋に訪問できる日が来ようとは、本当に夢にも思わなかった。うう、ドキドキするー……。
「どうぞ」
扉を開けて、蓮見がにこりと微笑んだ。固まっている俺の手をさりげなく引いて、中に入れてくれる。
ガチャン、と閉まった扉に、心臓がびくりと跳ねた。ああ、蓮見と二人きり。なんて美味しい……、いや、なんて緊張するシチュエーションなんだ。
蓮見は新入生総代を務めたので、ご褒美に一年生にしては大きめの部屋をあてがわれたらしい。二年生になったら、二ノ宮の使っていた部屋に引っ越すらしいけど、それと比べたらちょっと小さいくらいかな。俺のアパートに比べたら、とっても快適そう。
リビングに物はあまりなくて、最低限の家具が置かれてあるくらい。白いソファには、深緑のカバーが掛けられていた。その上に座って、俺はきょろきょろと部屋の中を見回した。
「綺麗にしてるんだね」
「物がないからな」
蓮見は苦笑を浮かべ、キッチンでお茶の準備をしてくれた。俺は何も言ってなかったんだけど、甘い物が好きだとバレていたのか、出されたのは砂糖とミルクがたっぷり入った紅茶でした。蓮見はアールグレイのストレートだって。
「美味しい……」
日頃は水か日本茶くらいしか飲まないから、紅茶の味なんてさっぱり分からないけど、蓮見が淹れてくれたのは香りが強くて、色も綺麗だし、味が濃い気がした。ミルクを入れても全然負けてないの。紅茶って美味しいんだなぁ、と思って、一気に半分飲んじゃった。
「おかわりあるからな」
蓮見が自分の分のコップを持って、隣に座る。振動が伝わってきて、ドキリとした。
凄く近くに蓮見の気配がする。隣に座っているんだから当たり前だけど、誰もいない空間でこんなに近くにいると、やたら意識してしまう。
喉が渇いてしまって、コップの中身を全部飲み干してしまった。会話が、思い付かない。
何かを言わなければと思って、隣にいる蓮見の方をチラリと窺う。そこで、俺はまた固まった。蓮見がじぃっとこちらを見つめていたのだ。
「な、何?」
「いや。なんか借りて来た猫みたいで、可愛いなーと思って」
蓮見が目を細め、ふんわり笑う。それはもう、凄く綺麗な笑みで、俺の頭は沸騰したみたいに熱くなる。
ああ、何か言わなきゃ。せっかく遊びに来たのに、二人きりなのに。昨日からとっても楽しみにしていたんだ。
でも、なんでだろう。ドキドキして、上手く喋ることができない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!