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愛と苦悩J


 寝入ってしまったのは、ほんの数分だったと思う。目を瞑って、もう一回開いたら、矢沢君と目が合った。

「飯食べねぇの?」

「んー? ……食べる」

 蓮見と一緒にごはーん……って、蓮見いないし。
 先生と話しているはずの蓮見は教室にいなかった。どこ行っちゃったんだろ。トイレとか?
 矢沢君にもう一度視線をやると、彼は大好きな焼きそばパンを食べながら、事も無げに言った。

「お前が寝てるからって、蓮見は学食行ったぞ」

「え……」

 まさかの事実に俺は口をぽっかーんと開けた。

「正夢……」

「ん? あ、それでな」

 起こしてくれれば良いのに、なんで一人で行っちゃったんだろ。でもまぁ、ご飯くらい一人でも行くよね。付き合ってるからってなんでも一緒ってことはないよね。

「……ってことで」

「俺、屋上行ってるね」

「え? おいハセ、俺の話聞いてたか?」

 矢沢君が何か言ってるけど、今はどうでも良いや。
 予習の途中なのに、なんだかすっかりやる気をなくした俺は、のそのそーっとした足取りで屋上に向かった。いつものように窓から外に出るが、さすがにこの季節、寒風は骨身に染みた。
「うあーさみー」

 寒さに負けて、俺は埃っぽい踊り場に戻った。さすがにカーディガンだけじゃ、冬の寒さに勝てはしない。なんか格好悪いけど、俺もやしだからさ、寒さには弱かったりするの。
 教室に戻る気にもなれなくて、俺は踊り場の陰に座り込んで、時間を潰すことにした。外気の冷たさがコンクリートを伝わり、息が白くなるんじゃないかってほど寒いけど、外よりは温かい。半分寝ぼけている頭には、これくらいがちょうど良いかもしれないな。

「……なんで俺、凹んでるんだろ」

 蓮見と学食行けなかったくらいで、何故こんなに動揺しているのか分からなかった。子供じゃないのに、変だよこんなの。
 夢のことを引きずってるだけだ。現実の蓮見は、俺が言えば一緒にいてくれる。きっとそうだ。
 ポケットから携帯を取り出して、蓮見の番号を探した。今からそっち行っても良い? って聞けば良いんだ。そしたら蓮見は、良いよって笑いながら言ってくれるだろう。
 そう思うんだけど、あと一歩というところでボタンを押す勇気が出なかった。もし、断られたら嫌だなとか、面倒に思われないだろうかとか、くだらない不安で、動きが鈍くなる。結局、それならいっそ、待っていようと諦めてしまった。
 付き合う前はこんなこと考えなかった。遊びたいとか、ご飯食べたいとか、蓮見が嫌な顔をしても冗談みたいに言っていた。でもそれは、最初から断られると思っていたから平気だったんだ。ただ蓮見と喋るための口実だった。俺は別に、蓮見が応えてくれるなんて期待していなかったんだ。
 だから、今はどうして良いか分からないや。

「馬鹿らし……」

 受身で根暗な自分に嫌気がする。もっとしゃんとしないとな。
 長ーい溜息を吐いて、よし! と声を出して立ち上がった。

「うう、寒っ」

 腕をさすりながら、階段を下りた。ケツが冷たくなっている。5分くらいしか座ってなかったのに、体が冷えてしまった。
 蓮見が教室に戻ってくる前に、俺も何か食べておこっかな。今頃だったら購買も空いてそうだ。うん、それが良い。放課後は蓮見の部屋にお邪魔するんだから、くよくよしてなんかいられないよね。おーなんだかテンション上がってきたぞ。購買でお菓子も買っておこうかな。蓮見はしょっぱい系と甘い系どっちが好きなんだろ。聞いてみなきゃ。
 ポッキーをぽりぽり食べてる蓮見を思い浮かべ、俺の口はにんまりと緩んでく。お菓子食べる蓮見って、超可愛くないですか? うふふ。
 その時、廊下の方から人の気配を感じた。何気なしに顔を上げると、階段の一番下で、こちらを見上げている男がいる。

「あ……」

 俺の体を、悪寒が一気に走り抜けた。相手はそれに笑みを返す。

「久しぶり」

 これも正夢か……。
 夢より意地の悪い顔をした二ノ宮を前にして、俺のテンションは急下降です。



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