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愛と苦悩B


「じゃ、今日は送るだけにする」

「へ?」

「家まで送る」

 言うないなや、蓮見は俺の手を引っ張って、アパートに続く道を歩き始めた。本当に送る気なのかな? 嬉しいけど、でも、蓮見に気を使わせてしまった気がする。

「いいよ〜。寮と反対だし、俺すぐにバイト行くから」

「別に部屋に上がり込んだりしない。すぐに帰るから」

「そういう問題じゃなくて……」

 うう、どうしよう。なんか凄く申し訳ない。
 バイトがなきゃこんなことにならなかったのに、俺ってなんて貧乏くさい男なんだろ。

「俺が行くと困るのか?」

「違うよ〜女の子でもないのに送ってもらうのが恥ずかしいだけ」

「そうか」

 蓮見は納得してくれたようだ。これで帰ってくれるかな。帰ってくれるはず……えっと、何故俺達はまだ手を繋いでいるんだろ?

「恥ずかしいだけなら却下だな。やっぱり送ってく」

「ちょ、俺の気持ちを尊重して下さいよ蓮見さん」

 足を踏ん張って、蓮見を引っ張り返した。それでやっと止まってくれる。よーし、このままここでバイバイするぞー。
 と、心の中で思っていたのに、顔はまだだらしなく緩んでいた。蓮見がそれを指して、「嬉しそうに見えるが?」と、俺の心を見透かしたように笑う。

「そりゃ、そうなんだけど」

「なら問題ないだろ」

 こうして俺は、蓮見に丸め込まれてしまった。 くそう、強引なところも格好良いんだから、もうやんなっちゃう。
 前を歩く蓮見に聞こえないよう、俺は小さく溜め息を吐いた。胸がきゅうきゅういってて苦しいです。蓮見は俺がどんなに蓮見のこと好きか、分かってるんだろうか。いや、きっと分からないだろうな。
 体温を奪おうと、木枯らしが足下を吹き抜けていく。日が落ちた空は、くすんだような色をしていた。
 もうすぐ今日が終わってしまう。こうして蓮見と過ごす日が、あと何回続くんだろう。
 なーんて、付き合いたてのくせに辛気くさく考えてるなんて、蓮見には口が裂けても言えない。うん、俺って脳天気そうに見えて、意外と現実見てるんだよ。
 俺達って、きっと上手くいかないと思うんだ。だって、金銭感覚とか、生活環境とか、違い過ぎるんだもん。俺はお金どころか遊ぶ時間さえ持っていない。
 今は良かったとしても、卒業したら、大変なことがたくさん起きると思うんだ。蓮見は当然のように大学に行くだろうけど、俺は就職するつもり。進学するためのお金なんて、逆立ちしてもないからね。
 2人とも社会に出たら、全然違う世界の人間になってそう。俺と蓮見が一緒にいるとこなんて、全然想像できないや。
 それに、俺達は男だからさ、結婚もできないでしょ。子供もできない。本当に大きな問題だ。



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あきゅろす。
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