16 テスト期間が終わるまで、俺は極力蓮見と桜井君に近付かないようにしたんだけど、そのお陰で集中して勉学に励むことができた。 まぁ、俺がいなくて桜井君が寂しがると、嫉妬にかられた蓮見からの風当たりが強くなって、俺にとってはしんどいこともあったけれど、そこは目を瞑ろっと。 何はともあれ、これで鬼のテスト勉強が終わる! 最後の化学式を書き込んでフィニッシュ。やった〜これで今日からバイトができるぞ。 俺は、びっしりと文字やら数字やらが書き込まれた答案を見返して目を細めた。他の教科も似たようなものだ。まだ答え合わせもしていないが、まぁまぁ自信がある。とりあえず、10番以内には入ってるんじゃない? チャイムが鳴って、教師の声掛けで答案が回収される。蓮見に裏返した紙を渡して、俺は机に額をつけた。んーちょっと油断すると寝ちゃいそうだよ。 俺はこの時さっさと教室を出なかったことを後で悔やむことになる。蓮見とお喋りしてから帰ろうなんて欲を出さなければ良かった、本当に。 「お〜い、長谷部」 「んん?」 いやだなぁ、誰だよ、俺のしっかりセットした髪の毛を引っ張るのは。 「って、爽やか男前の矢沢君じゃない」 「お、もっと褒めてくれて良いんだぞ」 「うふん、でも背が俺より高いから好みじゃないなぁ」 「そりゃ残念だ。長谷部くらい別嬪なら、俺もノンケの壁を突破できると思ったんだけどな」 「ちょおっとそれって、俺がネコちゃんってこと〜?」 「俺とお前ならそうだろ」 口角を上げる矢沢君は、子犬ちゃん達がしっぽを振ってついて入ってしまうほど格好良い。でも、残念ながら彼はちゃんと女の子が好きなんだ。だから俺の軽口にも何も考えずに乗ってくる。ま、俺も蓮見以外はアウトオブ眼中の人間だから、彼からの信頼はある意味厚い。 蓮見が通り過ぎる時、めちゃくちゃ鋭い視線をくれたがそこはスルーした。でも、「俺は蓮見が相手ならネコでも良いよ」って一応言ってみる。もちろん机を思いっきり蹴られた。矢沢君は蓮見の剣幕に少しビビッているけれど、俺にとっては予想の範囲内。 そして蓮見は既に俺達の存在なんて忘れ去り、教室から出て行った。きっとこの後桜井君に会って遊びにでも行くのかな。だってやっとテストが終わったんだから。 「あ、それでさ」 「うん、何?」 おおっといけない。矢沢君は俺に何か用があったんだった。さて一体なんだろう。 俺は机の傍に立つ彼を見上げる。彼はやはり爽やかな笑顔で、俺の肩を叩いた。 「また風紀委員長から呼び出しだぞ」 「…………あはは」 「お前テスト期間中なのに何やらかしたんだ? 最近頻度増えてるぞ」 意地悪く笑う矢沢君は、きっと何にも考えてないのだろう。そりゃそうだろうけどさ、今はちょっと恨めしいかな。 「俺にもよく分かんないよ〜」 「って、とりあえずその髪直すとこからだろ」 「嫌だ〜金髪は俺のトレードマーク」 「個性は外見だけじゃあないぞ」 「でも中身がこんなんだからさぁ、外見もそれに合わせないと」 「ま、それも一理……」 「ちょっ、そこは否定してよん」 もはや現実逃避気味の会話を繰り広げ、俺は無理やり笑っていた。 本当にさぁ、何考えてんだよ、あいつは。 [*前へ][次へ#] [戻る] |