可愛い人@
大量の書類の山。その頂上に俺は最後の資料を置いた。
「よし、問題ない。今日やることはこれで全部だな?」
「は、はい!」
確認した俺に、傍にいた委員が勢いこんで頷いた。
「もうお帰りになって結構です!」
その途端パッと扉を開けられ、部屋の中で未だ作業をしていた委員達全員が席を立つ。
……そんなに帰りたいと顔に出ていただろうか。
「いや、凄い勢いでお仕事片付けてらしたし、無表情が怖いと言いますか。恋人をお待たせしているんですよね? 羨ましいなー……」
「俺達みんな応援してますから! あ、でもあの髪の毛だけはなんとかさせて下さい! 公私混同反対!」
「委員長に負けないよう僕達も頑張ります〜。けどちょっと思春期の男子には刺激が強いので、校内でイチャつくのは自重して下さい〜」
「…………すまん」
忠誠心の中に不満だかなんだかを含ませる委員に、素直に閉口してしまう。一応謝罪は入れたが。
そして笑顔で早く行けと扉に誘導される。こうして気を使わせるのは少し申し訳ないが、いつも俺はこの好意に甘えていた。正直、皆が言う恋人の方が仕事より大切なのだ。
「それじゃあまた来週」
「はい、ごゆっくり!」
「し過ぎは駄目……げふっ」
口を滑らせた委員を隣の奴が小突いた。多分俺が余計なことを言うなと一瞥したからだろうが、さすが良い判断だ。
帰り道、チラリと時計を確認するともう夜の10時を過ぎたところだった。部活帰りに委員会の仕事をするといつもこれより遅くなる。彼らが言ったように、俺は早く帰りたかった。
足早に寮の自室の前までくると、深呼吸して息を整える。カードキーでロックを外し、そっと扉を開いた。すると、玄関には俺のものではない男物の靴が1組。花のものだ。
心がじんわり温かくなるのを感じた。柄にもなく感動しているらしい。
俺は花の姿を探して、部屋の中を歩き回った。そしてリビングのソファーで静かに寝息を立てている彼を見つける。
忍び足で近づいて覗き込むと、大きなクッションを抱え込み顔を埋めている。高い身長が丸まって、まるで幼児のようだ。
その時ふと、テーブルに置かれたカードが目に入る。この寮部屋のスペアキーだ。申請がやっと受理されて、今日の昼に花に渡したものだ。忙しい花にいつでも俺を訪ねてきてほしくて与えた、俺の独り善がりなプレゼント。
けれど、花はとても嬉しそうに笑って、はしゃいだ様子を見せてくれた。
さっそくこれを使ってくれてたということは、花も本当に喜んでくれたんだな。それで俺を待つ内に眠ってしまったのだろう。
花はいつも睡眠不足で、目を離すとすぐに寝てしまう。その寝顔は美しくも愛らしいのだが、無防備過ぎて俺には少し頭が痛い。花の寝顔を見られるのは俺だけで充分だ。
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