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 ガタガタと盛大な音を立てて、桜井君がすっ転んだ。青いポリバケツがひっくり返って、彼の髪の毛、肌、制服を問わず汚していく。それを見て愉快そうに笑いながら、獲物を罵倒する子犬達。

「わ〜、チワワも怒らせると怖いものだね」

 後ろから暢気に声を掛けたら、彼らはびくりと背を震わせて、俺の方を振り返った。何だか少し見覚えがある。蓮見の取り巻きの中にいた顔かもしれない。
 彼らは俺の存在に驚愕しながらも、何故か安心したように息を吐いた。え、俺ってそんなに弱そうに見えるわけ? 少なくとも身長は彼らより随分上なんだけどー。

「長谷部君、ちょうど良かった。今こいつに制裁を加えようとしていたんだ」

「あは、うん、そうなんだ」

 見れば分かるけど。というか制裁というより、ただの子どものいじめじゃないか。それになんだろう、ちょうど良かったって?

「本当に信じられない。蓮見さんがお前なんか相手にするわけがないのに!」

「不細工が、あの人に取り入るなんて」

「ねぇ、長谷部君もそう思うよね?」

 ああ、そう言うことか。彼らは俺を仲間だと思っているらしい。そりゃそうだ、俺の蓮見への執着ぶりは彼らの中では有名なことなのだから。でもさ、いつも蓮見ばかり見ているから気付かないのだろうけれど、俺は君らとは違うんだよ。

「なんで? 蓮見が友達って言ったら、友達でしょ?」

 小首を傾げてにこりと笑顔を浮かべた俺を、彼らは間抜けな顔で見返した。何を言われたのか分からない、そんな感じ。
 俺は軽い足取りで彼らの間をすり抜けて、地べたに尻餅をついている桜井君の腕を取った。

「は、長谷部君……」

 ああ、可哀想に。俺が来るまでに折檻でもされたか、桜井君のぽてりとした唇が切れて、血が滲んでいた。

「よっこいしょ。うふふ、大丈夫〜桜井君?」

 俺は彼のゴミで汚れてしまった肩に腕を回し、よしよしと頭を撫でてやる。そこまできてやっと、子犬ちゃん達が我に返ったように叫んだ。

「なんで、お前だって蓮見さんのことっ」

「うん、大好きだよ。でもさ、桜井君は俺とおトモダチになったから」

 クスクスと笑って上から見下ろしてやると、彼らは顔を真っ赤に染めて眦を歪めた。ああ、怒ったの? でもさ、俺も随分と機嫌が悪いんだ。


「傷付けないでもらえるかな?」

 思いの外低い声が出た。子犬達は、今度は顔を真っ青にして、じりじりと後退していく。これで牽制にはなったかな?

 俺は桜井君の手を引きその場を後にした。彼らは追ってこなかったから、多分もう桜井君に直接手を出したりはしないだろう。その分俺に何かしてくるかもしれないけど、その時はその時だ。



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あきゅろす。
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