頭上の悪夢 隣の幸せ@
口の端を吊り上げて、俺に圧し掛かる悪魔のような男。見上げると、いつもあの瞳が揺らめいていた。
「な、んで……?」
俺はこいつとはもう別れた。今は蓮見と付き合っていて、今日は楽しいお泊りの日で……。
それなのに、なんでこいつに組み敷かれているんだ?
「やだ!」
恐ろしさに体が震え上がった。必死に二ノ宮の胸を押し返して、悲鳴を上げる。
だが、俺の抵抗なんていつも無意味なものだ。すぐに頬を叩かれて、思考が飛ぶ。二ノ宮の折檻は一度では終わらない。何度か頬をはられ、それでも言うことを聞かないと、手足の自由を奪われて、人間としてのプライドをズタズタにされるのだ。いつもいつも、そこに俺の意思なんてない。まるで物のようだ。
刷り込まれた恐怖に、体に力が入らなくなった。
無理やり足を開かれても、止めることができない。俺は目を見開いて背を仰け反らせた。
「ふ、嫌だぁ……っ!」
肉を割って侵入してくる肉棒が、俺の視界を黒く塗り潰す。
荒い男の息遣いがして、喉に変な感触がした。
「っあ、……や、めっ」
首を絞められ、気が遠のく。瞬間肛門がきゅっと締まって、二ノ宮は悦楽に頬を緩めた。
苦しい。痛い。気持ち悪い。
でも、一番嫌だったこと。それをこの男は簡単に口にする。
「夢でも見ていたの? 蓮見君は君のこと、嫌いって言っていたでしょ。何を期待しているの」
「は……うぐっ」
夢。蓮見が俺のことを好きだって言ってくれて、恋人になって。あの幸福は、全部幻だったの?
「う、そ……」
「本当だよ。これが現実。優希は、一生俺の物だよ?」
信じたくない。でも、俺の頭は妙に納得してしまうんだ。
だって、蓮見が俺を好きになってくれるなんて、本当にそれこそ夢のようだ。こんな根暗で、男に媚を売る人間、蓮見みたいな人が振り向いてくれるわけがない。
「そう。だからお前は、ずっとこのまま俺に抱かれていれば良い」
「んあぅ……っ」
奥へ奥へと進む楔に翻弄され、最低の人間に傅く毎日。これが俺の現実、日常だった……――
「花……?」
え、と思ったら、暗闇に浮かぶ瞳が漆黒に変わっていた。
「どうした、うなされてたぞ」
呆ける俺の頬を蓮見が優しく撫でる。そして軽く触れるだけのキスが額に落ちた。
「え、ここ……」
「俺の部屋。今日は泊まるって、お前が駄々こねたんだろ?」
そうか……うん、いや、覚えてる。
霞がかっていた思考が晴れてきて、俺は就寝前のやり取りを思い出した。そうだ、次の日学校が休みだから蓮見の部屋に泊まったんだ。
そう自覚すると、今度は無性に罪悪感が込み上げてきた。俺って本当に駄目だ。くだらない夢を見て、蓮見を起こしてしまうなんて。
未だに見る二ノ宮に犯される悪夢。蓮見と一緒だったら大丈夫かと思ったんだけど、そう簡単にはいかないみたい。
蓮見、変に思ったかな。嫌だな、心配させたくないのに。
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