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「仲がよろしいことで」

「ああ、そうだな」

「違ぇよ、お前とユリアン様だ」

「……何が」

「いつでもどこでも一緒。ジュリオ様だって、そんなに甘えたがりじゃないぜ?」

 第4王子は昔から体が弱かった。今も小さく咳をしつつ、布団の中から牡鹿のごつごつとした角の瘤を撫でている。ヨハンは甘やかすでもなく突き放すでもなく、適度な位置から彼を常に見守っている。

「噂では、1の王子と取り合ったとか」

「誰から聞いた?」

 さっと顔を強張らせたアーベルに、ヨハンは肩を竦める。

「公衆の面前でユリアン様がクラウス様を怒鳴りつけたらしい。私の騎士にちょっかいを出すな! ……ってね。もう大分広まっているんじゃないか? お守を取られそうで、3の王子がダダを捏ねたと」

 なんてことだ。アーベルは天井を仰ぐ。仕える主の名に傷をつけてしまうなど、まして、自分を間に挟み次期王位後継者であるクラウスとの仲を勘繰られてしまうとは。ユリアンにとって、良いことなど何もない。
 苦悶の表情を浮かべたアーベルに、ヨハンは笑みを浮かべる。

「王子が騎士離れできないのは、お前のせいでもあるんだからな。王子も良いお年頃なんだ。こんな厳つい舅がいては、おちおち相手も探せんだろうなぁ」

 ひひひと下品に笑ったヨハンの足を踏み付け、ギロリと睨みつけた。

「口を慎め。それに殿下はまだ16だ。婚約者にしても、まだ……」

「何を言う。1の王子はその頃には正妃を見つけていらしたぞ。2の王子も18にはそうだった。王族に早いも何もないだろう」

 アーベルは、不覚にもドキリと心臓を跳ねさせてしまった。確かに一般的に考えれば、16とは恋人がいてもおかしくない時期だ。ユリアンからそんな話は聞いたことがなかったが、実際、女に興味が湧く歳だろう。

「あれで、体はもう立派なもんだろうしな」

「お前……」

 だが、やはり主君に対する下品な言動は許せない。アーベルが本気で剣の柄に手をかけたものだから、ヨハンは慌てて手を振った。

「おい、何を本気に」

「冗談で不敬を働くのか、お前は」

 扉に手を突いて、眼光鋭くヨハンを睨みつける。勘弁しろと、ヨハンは冷や汗をかいた。

「貴様らは、何をしているんだ……」

 静まり返った寝所に、底冷えのする声が響き渡る。
 アーベルが振り向く前に、強く肩を引っ張られヨハンから引き剥がされた。それをしたのはユリアンだ。酷く不機嫌そうに眉を跳ね上げ、こちらをねめつけている。

「主を放って、何をしているんだと聞いている」

「いえ、ヨハンがふざけたことを言うもので」

「ええ?」

 ジロリとユリアンにまで睨まれて、ヨハンの視線はうろうろと逃げ惑う。
 だが次には、良いことを思い付いたように満面の笑みを浮かべる。

「そうだ、もう話は終わったんでしょう。ジュリオ様はもうお休みですから、また後日……」

 言うが早い。さっと体を引いて扉を開けて、アーベルとユリアンを押し出してしまった。



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