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「……すまなかった」

「何故殿下が謝るのですか? 私が自分でしでかしたことです……」

 そう言うが、ユリアンは首を振った。

「半分は、私のせいだった。兄弟喧嘩に巻き込んでしまって、私は主失格だ」

 そして、アーベルの胸にピタリと頬を寄せる。

「お前が無事で良かった、アーベル……」

「殿下……」

 なんて自分は幸せ者なのだろうとアーベルは思った。そして、なんて浅ましいのだろうと。

「どうした?」

「いえ……」

 気まずくなって王子の肩を引き離す。こちらを見つめてくる瞳がきょとんとして、更に居た堪れなくなった。ああ本当に、正直な体というのは疎ましいものだ。

「もう遅いですし、私は帰ります。本当に申し訳ありませんでした」

 本来なら礼を取りたいが、会釈だけで済ませる。早く退出したくてたまらない。いや、少しでもユリアンから離れたい。
 だが、扉に向かうアーベルは、またしてもユリアンに引き止められた。そして、向かいあった彼の視線が、自身の反応し始めている下半身に向けられていることに、死にたくなる。

「アーベル……」

「は、い……」

 明らかに不快感を露わにしている王子に面目が立たず、ただただ下を向いた。

「貴様、兄上に触られて感じていたのか?」

 ユリアンは怖い顔で、そっと膨らんだ股間を撫でた。それだけで、ビクリと反応してしまうのは、アーベルが若いせいだと思いたい。

「いえ、これはっ」

「私があんなに心配していたと言うのに、もしや、あのまま抱かれていたいなどと考えたのではないだろうな?」

 怖かった。ユリアンの瞳が全く笑っていないのだ。

「お、お許しをっ」

 ただ、謝ることしかできない。それで、何故かユリアンは、苦しそうに眦を歪めた。

「それは、今の私の言がその通りということか」

「いえ、違います……」

 アーベルは、いよいよ騎士職を剥奪されることを覚悟した。もう隠すことはできない。それほどまでに、自分の気持ちは膨らみ過ぎた。
 せめてもと、ユリアンの瞳を見据えて、アーベルは笑った。

「私は、ユリアン様をお慕いしております」

「…………」

 ユリアンからの反応はなかった。ただ、アーベルの言葉の真意を確かめようとしている、そんな感じだ。

「主として、この国の王子として、敬愛しております。ですがそれ以上に人として愛しているのです」

 一度言ってしまえば、存外すっきりするものだ。後はどうなるか分からない。そのままかもしれないし、近衛騎士は辞めることになるかもしれない。
 結局彼を裏切ってしまうのかと、アーベルは自分に落胆したが、それも過ぎた話だ。


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