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28


 その日は満月だった。城壁の上で煌々と輝く月を見て、ユリアンの焦りはどんどん強くなる。時間が経てば経つほど、アーベルの命が危険に晒されるのだ。彼は藁にも縋る思いで、廊下を走り出した。
 ユリアンがジュリオの下を訪れると、案の定そこにいた騎士は情けない苦笑を浮かべた。ユリアンが酷く憔悴していたからだろう。

「で、殿下、そんなに睨まれましても……」

「うるさい。アーベルの下に連れて行け!」

 射殺さんばかりに睨みつけ、絞め殺さんばかりに襟を掴む。なんて恐ろしいんだ、まるで邪神ではないかと、ヨハンは明後日の方向に目を向ける。

「いやーでも、そしたらクラウス様に怒られてしまいますし」

 きっと今頃はお楽しみの真っ最中だろう。邪魔をしたらいらぬ怒りを買ってしまう。そう教えてやれば、ユリアンはいよいよ顔を青褪めさせた。

「な、なにを……兄上はアーベルに何をしているんだ!?」

「えーと、いや、多分死にはしないので……」

「答えろ!」

 煩いと顔を顰めたヨハンにも、ユリアンは構っていられない。それくらい切羽詰まっていた。

「ヨハン」

 兄の剣幕を見かねたジュリオは、自分の騎士に向かって微笑んだ。ヨハンは嫌な予感がしながらも、ベッドの上の主を見つめる。

「はい、ジュリオ様」

「兄上の頼みだ。アーベルの下にお連れしてくれ」

「ジュリオ……!」

 なんて良い子だと、ユリアンは弟に抱きついた。その頭を撫でて、ジュリオは苦笑する。

「私も、アーベルには世話になった。彼が酷い目に遭うのを見過ごすわけにはいかない」

「殿下……あいつはラバランの民で、殿下に近付いたのも、復讐が目的かもしれないんですよ」

 ヨハンは溜息を吐いて、温かい兄弟愛に水を差す。だがそれを聞いたジュリオは信じられないと顔を顰めた。

「本気で言っているのか? それならば僕達は、当の昔に神の下に召されているはずだろう」

 それを聞いたヨハンは、眉を寄せて天を仰いだ。

「うう、そんな目で見ないで下さいよ……」

 そして渋々といったように、「独り言ですが」と呟いた。

「この城はやはり例に漏れず隠し部屋とかなんかあったりして、それはとある王子様の御用達となっているらしいんですよね」

「入り口はどこだ!?」

「いや、だからこれは独り言で……良い隠し場所というのは、人には見向きもされないところです。かと言って、いざという時に使えないと不便だ」

 するとヨハンは、くるりと指を回して見せた。そこには錆付いた鍵が、鈍い光を放っている。それがぽんと放られて、ユリアンは慌てて手を出した。

「誰もが目を瞑り、1の王子には都合の良い場所。そんなところありましたっけー」

 鍵を見つめるユリアンを、ヨハンは笑顔で寝室から追い出した。そして扉を閉める直前「ではよろしく」とユリアンに声を掛ける。なんだかんだと、彼も同僚が心配なのだ。
 錆の臭いがするそれを握りしめ、ユリアンは走り出した。じっと前を睨みつけ、目指すは城の奥の奥。


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