8
「う……ん……」
憎らしいことに、アーベルのそれはユリアンよりも立派で男らしい。皮は剥けきり幹も太く、それでいて形は美しい。それを扱きながら、眉根を寄せる姿の色っぽいこと。薄く開いた唇は浅い呼吸を繰り返し、伏せられた睫がふるふると震えている。先端からは止め処なく先走りが流れ出て、ぽたりと絨毯を汚した。ぐちゅりと響いた水音に、アーベルが不快も露わに顔を歪める。
「殿下……」
「なんだ?」
苦しげに見つめてくるアーベルが、何を求めているかなどすぐに分かる。けれど、ユリアンはまだ暫く彼の痴態を見ていたかった。
「自分ではできぬのか。普段はどうしているんだ。まさか、後ろを弄らなければいけぬと言うのか?」
嘲るように笑えば、アーベルが傷付いたような顔をする。そしてまた、意を決したように自分のものを愛撫し始めた。
素直で、真面目で、それでいて影があるアーベル。大きな体をして、彼の心は酷く繊細だ。長年一緒にいるユリアンでさえ、彼のことをすべて理解しているわけではない。
けれど、こうして彼が全てを曝け出し、ユリアンの気持ちに応えようとしてくれている。それがユリアンには嬉しくも誇らしい。
ユリアンがソファから立ち上がっても、アーベルはこちらを見なかった。ただ一生懸命傘の部分を撫でている。
ユリアンは彼の傍にしゃがむと、耳元に唇を寄せた。
「それではいつまで経っても終わらんぞ……」
吐息が耳に触れて、アーベルの体が揺れる。ユリアンは宥めるようにアーベルの肩を撫でながら、掠れた声で囁いた。
「熱いな。早くお前の中に入りたい」
そして耳を甘噛みして、穴に息を吹き込む。膝でアーベルのものを擦るのも忘れなかった。
「んっ」
アーベルが息を詰まらせて、先端からどくりと白い液が溢れ出る。生き物のように脈打って欲を吐き出すと、力を無くして垂れ下がった。はぁはぁと息をして、それを呆然と見つめるアーベルの頬を、涙が一筋流れ落ちる。
ユリアンはそれを優しく拭い、彼をベッドに誘った。
「く……っ」
「泣くなアーベル。良い子だな。よく出来た」
意地悪が過ぎたか、アーベルが珍しく泣いている。ユリアンも心が痛んで、酷く甘い声を出して彼のご機嫌を取ることに専念した。優しくキスをして背を擦り、彼が落ち着くまで辛抱強く待つ。抱きしめてやると、アーベルが身を委ね、ユリアンの肩に額を押し付けてきた。
ああ、なんて愛しい生き物なのだろう。ユリアンは黒い髪を弄び、それを何度も啄ばんだ。
「可愛い、愛している」
そして絶えず愛を囁く。次第に正気に戻ったアーベルが耐え切れなくなって、ユリアンのことをじろりと睨むまでそれは続いた。
「本当に貴方という人は、口が上手いのだから」
拗ねたようにそっぽを向く。辱めを受けたことを、愛の言葉で誤魔化されそうになって怒っているのだろう。けれど、ユリアンはこのまま流されてもらうつもりだった。
「お前にだけしか言わぬ。私は嘘が吐けぬからな」
「どうだか……」
「何故疑う? 私の傍には常にお前がべったりだ。子女に愛を囁く隙など、どこにある」
アーベルは、ハッとしたようにユリアンを見た。
「そのようなことを、お言いになるとは」
わなわなと唇を震わせたので、今度はユリアンも、彼を本当に傷付けた事を知る。
「貴方がおっしゃれば、私はいつでも身を引きます」
アーベルの手が握り込まれるのを、ユリアンはじっと見つめた。
「すまない、私が悪かった。だからそんなことを言うな……」
俯いた顎を掬い上げ、薄く開いた唇を奪う。
「お前がいない生活など考えられぬ。私にはお前が必要だ」
囁きながら、何度も唇を啄む。アーベルはぎゅっと目を瞑ったが、好きなようにさせてくれた。
その健気な様子に、ユリアンの若い雄はアーベルが欲しいと熱を高めている。ユリアンには、それを宥める術がない。
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